池上彰が斬る米国の内幕「炎と怒り」の本質 トランプ陣営は元々選挙に勝つ気がなかった
アメリカの分断を象徴する反響
本書『炎と怒り――トランプ政権の内幕』(原題はFire and Fury: Inside the Trump White House)の出版により、アメリカでは書名のごとく「炎と怒り」が渦巻いた。トランプ政権の驚くべき内幕を知って怒る人もいれば、トランプを批判するための偽りの本だという炎上も起きたからだ。
原著の初版部数は15万部の予定だったが、ドナルド・トランプ大統領が本の発売前に「出版差し止めだ」と怒ったため、出版社は刊行予定を4日早めて発売(2018年1月5日)。にわかに注目されることになり、100万部を追加重版した。
出版前から話題になったため、首都ワシントンの書店では発売日の午前0時から売り出したところ、瞬時に売り切れてしまった。「『ハリー・ポッター』の最盛期のような売れ行き」とコメントした書店員もいる。
書名は、2017年8月、核開発やミサイル発射実験を繰り返している北朝鮮に対し、トランプ大統領が「世界が見たことのない炎と怒りに直面するだろう」と威嚇した際の表現から取られている。人々は、この表現が先制核攻撃を示唆したのではないかとおののいた。
とはいえ、この表現はトランプ大統領のオリジナルではない。もともと『旧約聖書』の中の「イザヤ書」の一節からきている。神の怒りを象徴した言葉だ。
この本が発売されると、アメリカ国内の反応は真っ二つに分かれた。トランプ大統領に批判的な報道を続けているCNNは、著者のマイケル・ウォルフ氏をスタジオに呼んで、本書の中身を詳しく説明した。一方、トランプ大統領寄りのFOXニュースは、著者をジャーナリストとして信用ならない人物として描き出した。トランプ大統領の誕生後、アメリカのメディアが完全に分裂してしまったことを象徴する反応だった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら