池上彰が斬る米国の内幕「炎と怒り」の本質 トランプ陣営は元々選挙に勝つ気がなかった
この本が成立した大きな理由は、一時は「影の大統領」とまで呼ばれたスティーブン・バノン氏が取材に全面的に協力したことが大きい。この本でバノン氏がトランプ陣営のスタッフを歯に衣着せず批判していることを知ったトランプ大統領は、バノン氏を「正気を失った」と口汚くののしった。バノン氏はその後、本書に引用されている自身の発言の一部が誤って使われていると指摘はしたが、本書の内容は否定していない。要は事実だと認めているのだ。
そもそも、大統領選に勝つ気がなかった
本書によると、トランプ陣営には3通りの人間がいる。まずはイヴァンカ氏と夫のジャレッド・クシュナー氏。2人を称して「ジャーヴァンカ」という言葉が生まれたという。要はトランプ氏のファミリーだ。ファミリー・ファーストがトランプ大統領の本音である。
次に、陣営に取り入って、利益を得ようとする利己主義者ないし詐欺師に近い人々。こうした人々は、登用された後、すぐにボロを出し、怒ったトランプ大統領があっさりクビにする、という結末を迎えている。
そして、もうひとつのグループが、自分たちが何とかしないとアメリカという国家に危機が訪れると危機感を燃やして国家に尽くす元軍人たち。ごく少数の人々によって、今のアメリカ政府はかろうじて機能していることがわかる。しかし、これはいつまで続くのだろうか。
トランプ政権の幹部たちは、選挙中に駐米ロシア大使やロシアのエージェントと密会していたことが次々に明らかになっている。どうしてこんなことをしたのか。大統領になった後、大問題になるのは明らかなのに。そんな私の疑問は、この本で解消された。陣営の誰もが、トランプ氏が大統領になるとは思っていなかったからだという。
ロシアと密会していたのは、ライバルのヒラリー・クリントン氏にとって不利な情報を収集して暴露するためだった。これでヒラリー氏に肉薄することができれば、落選しても次につながる可能性がある。どうせ当選しっこないから、後で問題になることもない。そう思っていたのだという。
この本はベストセラーになったが、トランプ大統領の支持率は変わらない。もともと高くはないが、30%台から下がることもない。トランプ大統領には、まるで岩盤のような強大な支持者が存在するからだ。
支持者たちは、こうした書物を読むことはない。そもそも読書の経験がない。その点では、1冊も本を読み切ったことがないというトランプ大統領と同じタイプの人たちだ。支持者がこうした本を読もうとしないのと同じく、きっとトランプ大統領は、いまも本書を読んでいないだろう。アメリカは、こういう人間を大統領に選んだのだ。
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