嘘つきでないと「営業」は成立しないのか 顧客よりも会社を優先することの違和感

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そんな主人公が使った言葉が「千三つ」。不動産などの仲介業のことを指す言葉ですが、一方で「千のうち三つしか本当のことを言わない」という意味もあります。

この言葉を、主人公は新しく入ってきたばかりの後輩に対して伝えるのです。これが不動産営業の基本なのだと。嘘や不誠実な回答を顧客にすることが売り上げを上げるために必要なのだと、威張りながら言うのです。

そんな主人公がある日、不思議な力によって嘘がつけなくなるところから、このお話は動き出します。どんな問いにも正直に答えてしまい、せっかく顧客が首を縦に振りそうだった案件も、次々と水に流してしまう。そして営業成績はみるみる下がり、1位の座を後輩に明け渡してしまいます。

そんな状況のなか、主人公は再度奮起して、嘘をつかない営業で一位を取ろうとします。嘘が封印された主人公は、果たしてその状態で売り上げ一位を取ることができるのか、それがこの作品のキモになっているところでしょう。

「営業の意味」を考えさせられる作品

自分も前職は人材派遣の営業をしていたので、このお話はとても印象に残りました。会社の社是としては、顧客の価値の最大化をうたっているにもかかわらず、実際にはおカネを出してくれる企業のことを最優先している会社の方針に、ずっと違和感がありました。

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また、上司が請負の仕事を企業から受けたとき、請求書には作業人数を2人としていたにも関わらず、実際には1人しか稼働させないで、1人分の人件費を余分にもらって売り上げを立てたことも、とても違和感がありました。そしてそんな上司を「よくやった」と賞賛する会社にも、やっぱり違和感がありました。

営業は、売り上げのためなら何をしてもいいのでしょうか? 嘘をついて、人をだましておカネをもらってもいいのでしょうか? バレなきゃ問題ないということなのでしょうか? 営業をやめた今でも、時々考えることがあります。

だからこそ、顧客に誠実に対応して、みんなが幸せになる形で営業をしていく主人公を、自分は応援したいと思います。嘘をつかなくたって、営業ができることを証明してほしいです。

この作品は、組織で一度でも営業という職種に就いた人すべてにオススメします。営業とは何か、誰のために働き、何のために商品を売るのか、この作品を読むことでもう一度考えてみてはいかがでしょうか。

(文:岡田 篤宜)

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