3月4日のイタリア総選挙は、イタリアの有権者の既存の政治への不信と、急速に争点へと浮上した不法移民に対する懸念の強さを示す結果となった。
本稿執筆時点(日本時間5日14時)で入手可能な開票速報によれば、反エスタブリッシュメントの「五つ星運動」が上下両院で第1党となる見通しだ。しかし、得票率はおよそ3割で、単独での政権樹立は困難である。
政党連合では、ベルルスコーニ元首相率いる「フォルツァ・イタリア」とサルビー二党首率いる「同盟」を主軸とする中道右派連合がリードするが、得票率は4割に届かず、やはり中道右派連合のみでの政権樹立も難しい。
中道右派連合のリードは事前の段階で予想されていたが、注目すべきはフォルツァ・イタリアが同盟の後塵を拝しそうなことだ。ベルルスコーニ元首相は、1994年5月~1995年1月の第1次政権の後、2001年~2011年末まで、2006年5月~2008年5月の期間を除いて政権を担い、政界で強い存在感を放ってきた。
今回の選挙でも、自ら所有する民放テレビ局への出演などを通じて、減税や所得保障、移民対策の強化など有権者の関心の高い公約をアピールした。しかし、有権者は、その実現性に高い期待を寄せず、変化を求めた。かつて北部の独立を掲げていた北部同盟は、「同盟」として反移民、EU懐疑主義を掲げて総選挙に臨み、成功を収めた。
中道左派惨敗、連立でEU懐疑主義政権成立も
レンツィ元首相率いる「民主党」の得票率は2割程度と低迷、民主党を中核とする中道左派連合全体でも五つ星運動単独の得票率に届かない惨敗となる見通しだ。欧州各国における中道左派後退の流れにイタリアも続いた。
レンツィ党首は、2016年12月に憲法改正の是非を問う国民投票の敗北で辞任するまでの2年10カ月の任期中、意欲的に改革に取り組んだ。解雇規制の緩和などイタリアの競争力回復につながる改革自体は、筆者が総選挙直前に訪れたミラノのビジネス界でも高く評価されていた。しかし、中道路線を強めたことが左派の分離を招いたことや、傲慢ともとれるレンツィ党首の政治手法も批判を浴び、改革路線継続の道は断たれた。
ここまでの結果に基づけば、市場が最も穏当なシナリオとして期待していたフォルツァ・イタリアと民主党による大連立の可能性は低下し、五つ星運動の政権入りの可能性は逆に高まっている。中道右派連合の枠組みが維持された場合には、サルビーニ首相の誕生、あるいは五つ星運動と同盟による連立というEU懐疑主義政権誕生の現実味も帯びてきた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら