「全国民へ生活費支給する政策」が有効なワケ 経済を成長させ、景気や雇用を安定化させる
実際には、全面的に自動化される仕事はごく一部にすぎない。アメリカの雇用の半分近くが自動化により消滅するという研究報告はよく知られているが 、この主張には異論も多い。たとえば、経済協力開発機構(OECD)によれば、自動化により消滅する「リスクにさらされている」職は、先進国の場合、全体の9%にとどまるという。
そうは言っても、仕事の性格が変わることは避けられない。しかも、変化はきわめて急速に進む。雇用のない未来、ましてや仕事をする必要のない未来が訪れる可能性は小さいとしても、テクノロジー革命が不平等をいっそう深刻化させていることは事実だ。強力な企業とその所有者たちがテクノロジーの恩恵の多くを手にし、所得分配の面で富裕層の取り分がいっそう増える逆進的な結果が生まれている。この点を考えると、新しい所得分配システムの必要性はひときわ大きい。その新しいシステムの土台を成すのはベーシックインカムであるべきだと、わたしは考えている。
「10年以上先」だが、「100年はかからない」
新興企業を育成するインキュベーター企業、Yコンビネーターは、ベーシックインカムの試験プロジェクトに資金を拠出している。同社のサム・アルトマン社長によれば、雇用なき未来が訪れた時代にベーシックインカムが給付された場合、人々がどのような反応を示すかを明らかにすることが狙いだという。ブルームバーグの取材に対して、こう述べている。
「テクノロジーが旧来の雇用を奪い続ける一方で、莫大な富が新たに築かれるなか、いずれ全米規模でなんらかのベーシックインカムが導入される日が来ると、わたしは確信している」。別のインタビューでは、その時期は「10年以上先」だが、「100年はかからない」との見通しも示している。
とはいえ、差し当たり問題なのは、人間の仕事が突如消滅することよりも、所得分配に深刻な不平等が存在していることだ。いま起きているテクノロジーの変化は、有給の労働に大きな打撃を与え、一部の職を消滅させつつあるが、歴史上はじめて人間のすべき仕事を増やしているテクノロジー革命と言えるかもしれない。しかし、テクノロジーの変化が所得の不平等を拡大させていることは否めない。
インターネットのワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の生みの親であるティム・バーナーズ゠リーは、テクノロジーがもたらす大規模な不平等を是正する手段としてベーシックインカムを支持すると述べている。著名な物理学者・天文学者のスティーブン・ホーキングも、同様の理由でベーシックインカムを提唱している一人だ。
国際通貨基金(IMF)のシニアエコノミストたちも、テクノロジーが原因の不平等が拡大すれば、「資本課税を財源にベーシックインカムを導入する利点が明白になる」と結論づけている。ベーシックインカムは、テクノロジーの進歩がもたらす恩恵をすべての人に行き渡らせるための手立てにもなりうるのだ。
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