「全国民へ生活費支給する政策」が有効なワケ 経済を成長させ、景気や雇用を安定化させる

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経済成長を促すために人々に直接おカネを配るというアイデアは、アメリカの経済学者ミルトン・フリードマンが1969年の論文で提案していた。フリードマンはその考え方をわかりやすく説明するために、ヘリコプターからドル紙幣をばらまき、人々に拾わせるという比喩を用いた。お札を刷って国民にばらまく「ヘリコプター・マネー」は、アメリカの債券投資家ビル・グロスや経済ジャーナリストのマーティン・ウルフなども提唱している。

近年、ベーシックインカムへの関心が高まっている一因は、(どのくらいその考え方が妥当かはさておき)遠くない将来、IT革命とオートメーションとロボティクスの影響により、人間の雇用の多くが失われ、大規模な「テクノロジー失業」が発生するという見方が広がっていることにある。マーティン・フォード、ニック・スルニチェクとアレックス・ウィリアムズ、ポール・メイソンといった論者は近年の著作で、雇用なき未来にはベーシックインカムが不可欠になると主張している 。

シリコンバレーの実力者やテクノロジー業界の大物たちが続々とベーシックインカム推進派になっているのも、この点を案じているからだ。大物債券投資家のビル・グロスも、ロボットによる「仕事の終焉」に備えるためにベーシックインカムが必要だと主張している。

2016年7月には、フェイスブックの動画配信「フェイスブック・ライブ」の討論会がホワイトハウスで開かれ、オートメーションとベーシックインカムについて話し合われた。しかし、大統領経済諮問委員会は同年12月に発表した報告書で、ベーシックインカムのアイデアを退けている。おそらく、その半年前に同委員会の委員長が否定的な発言をしたことを受けてのことだろう。

テクノロジー失業論を主張する論者の一人であるサービス従業員国際労働組合(SEIU)のアンディ・スターン前議長は、労働組合の有力指導者のなかでベーシックインカム支持を表明した最初の人物と言えるだろう。

アメリカを中心に大きな話題を呼んだ2016年の著書では、株主価値重視の風潮の下、すべての雇用の58%がいずれ自動化されるとの予測を示した。アメリカのメディアグループ、ブルームバーグの取材に対して、スターンはこう述べている。「自動車産業や鉄鋼業が凋落したときとは話が違う。1つの産業が打撃をこうむるだけではなく、影響はもっと広い範囲に及ぶ。もはや嵐という比喩では足りない。大洪水に襲われるような経験が待っている」。

テクノロジーがもたらす恩恵をすべての人に

しかし、雇用のない未来、もっと言えば、仕事をする必要のない未来がやってくるという予測は鵜呑みにできない。この種の考え方は、「労働塊の誤謬」と呼ばれる誤解の最新版と見ることができる。要するに、労働や仕事の総量は一定であり、AIロボットによって自動化される仕事が増えれば、その分だけ人間の労働者が職にあぶれる、という思い込みをしているのだ。

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