「全国民へ生活費支給する政策」が有効なワケ 経済を成長させ、景気や雇用を安定化させる

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伝統的なケインズ経済学では、福祉国家の仕組み、特に社会保険制度は、景気循環の波を小さくするための安定化装置の役割を果たしていた。景気がよく、インフレ圧力が高まってくると、支援の必要な失業者が減る結果、たいてい福祉給付のための公的支出が減り、景気の過熱にブレーキがかかった。逆に、景気後退期には、失業手当やその他の福祉給付が増え、需要が刺激され、雇用回復が後押しされた。

しかし、既存の福祉制度は、マクロ経済の自動安定化装置としての力が弱まっている。資力調査など条件つきの支援への移行が容赦なく推し進められるにつれて、社会保険の規模が縮小しているためだ。しかも、新自由主義思想に基づく財政緊縮策、すなわち財政均衡と政府債務削減のために歳出削減を目指す政策により、政府は景気後退期にも意識的に支出を減らすようになった。

その点、シンプルなベーシックインカムを導入するだけでも、ある程度の自動安定化装置になる。景気後退期の人々の支出力を高められるからだ。わたしは以前、重層型のベーシックインカムを提案したことがある。ささやかな固定額のベーシックインカムに加えて、「安定化」のための給付金を上乗せして給付するというアイデアだ。

上乗せ部分の金額は、経済の状態によって変える。具体的な金額は、独立した委員会に決めさせるのが好ましいだろう。これは、中央銀行の政策金利決定のための委員会と同じような位置づけと考えればいい。この仕組みは公正性も高い。雇用が多いときは、高所得の職に就く機会が比較的多いので、給付金を少なく抑えることが理屈に合う。一方、景気後退期に給付金を増額することは、「機会所得」の減少を埋め合わせる効果がある。

それに対し、既存の社会的扶助の仕組みは、雇用が少ない景気後退期に、失業者に職探しを要求する。しかし、まじめに職探しを続けていることを証明するよう求めれば、実質的に受給者の所得を減らしてしまう。職探しは時間とおカネとやる気を消耗するし、雇用の少ない状況で職探しに励んでも報われない可能性が高いからだ。

金融機関のための量的緩和から人々のための量的緩和へ

2007~2008年の金融危機後の景気後退を受けて、日本を始点に、多くの国でデフレ脱却を目指す金融政策が導入された。量的緩和策(QE)である。しかしこの時期は、とりあえず短期間でもベーシックインカムを導入するチャンスだった。アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)、日本銀行、イングランド銀行、欧州中央銀行(ECB)などの中央銀行は、量的緩和策の下、莫大な量のドルや円やポンドやユーロを金融市場に流し込んできたが、経済成長を促進するという目的が十分に達成されているとは言えない。

その莫大な資金のごく一部でもベーシックインカムに振り向けていれば、もっと経済成長を促進できただろう。この政策は、貧困層より富裕層を潤すという心配も少なく、予算面でも明らかに実現可能性があった。さまざまな経済学者がそのような選択肢を提案していた。

アメリカのFRBが量的緩和につぎ込んだ4兆5000億ドル(約480兆円)があれば、アメリカのすべての世帯に5万6000ドル(約600万円)ずつ配布できた。イギリスでは、イングランド銀行が費やした3750億ポンド(55兆円)があれば、合法的居住者全員に、週50ポンド(約7300円)のベーシックインカムを2年間配れた。しかし実際は、量的緩和策が実行されて大口投資家が潤い、所得格差が拡大し、年金制度の資金不足に拍車がかかっただけだった。

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