(最終回)D・マッカーサーと戦後日本

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(最終回)D・マッカーサーと戦後日本

高澤秀次

●コーンパイプの魔のけむり

 『昭和おもちゃ箱』に収められたエッセイ、「ピーターパンダとシンデレランラン」の締め括りに、阿久悠は次のような短歌を詠み込んでいる。
半世紀過ぎて今なおただよいぬ
コーンパイプの魔のうすけむり
 コーンパイプは、言わずと知れたマッカーサーのトレードマーク。厚木飛行場に降り立つタラップでのマ元帥のサングラス、コーンパイプ姿は、当時の日本人の度肝を抜いた。そのラフなスタイルに示された敵将の余裕、軍人らしからぬリラックスぶりがである。

 曲のつかない『書き下ろし歌謡曲』でも阿久悠は、「コーンパイプの魔のけむり」という詞を書いている。その心は、「マッカーサーが厚木飛行場に着いたときのあのパイプから流れていた煙りが、いまごろになってきいてきたんじゃないかということ」。

 敗戦当時、12歳の子どもに見立てられた日本人が、何の疑問もなく、「アメリカって親切だね」と感じ受け取ったものが、「いまになって、なんかボディブローみたいに50年たってきいてきたんじゃないか」という作詞家の直感である。

 大人になろうとしない、また、なろうにもなれない「ピーターパンダ」や「シンデレランラン」の背後に、まがまがしいアメリカの影を察知し、マッカーサーのコーンパイプから流れる「魔のけむり」の50年後の効果を、鋭く嗅ぎ当てたのである。

●「お前たちは12歳のままでいいのだよ」

 敗戦から半世紀後の現在、それがボディブローのようにきいてきたとは、具体的にどういうことか。

 おそらく阿久悠は、日本人は精神年齢12歳というマッカーサーの侮蔑的メッセージに、だから早く大人になりなさいではなく、だけどお前たちは12歳のままでいいのだよ、いつまでも子どもでいなさいという、邪悪な意図を読み取ったのでないか。
はるかな昔の 八月の終り
夏と秋とが 混り合う
そんな季節に
一人の男が 胸をそらして
焼けた大地に 降(お)り立つ
ダグラス・マッカーサー

ぼくらは忘れない
ぼくらは忘れない
レーバンのサングラス
ポケットに入れた左手
そして そして
コーンパイプの魔のけむり
ぼくらを 酔わせて 眠らせた
(「コーンパイプの魔のけむり」冒頭部分)
 これは、なかなか意味深長な詩である。2番の歌詞でマッカーサーは、「白い巨人」に喩(たと)えられている。

 改めて考えてみるに、日本を占領(1945年8月~1952年4月)したGHQ(連合国総司令部)の意図と目的は何であったのか。

 最大にして最終的な目的として、占領政策に反映されたのは、日本軍国主義の解体と民主化の徹底による、反社会主義・親米国家への衣替えであり、そのための国民の"洗脳"である。

 アメリカにとっての太平洋戦争とは、幼きアジアの野蛮国による「民主主義」への凶悪な挑戦だったのだ。占領軍は、「大日本帝国」の徹底的な武装解除と、神がかり的な天皇制軍国主義国家の解体により、二度とアメリカ的文明の象徴である「自由」と「民主主義」を侵犯することのない非武装国家の青写真を描いていた。
 この占領当初の青写真はだが、朝鮮戦争の勃発(1950年)で軌道修正を迫られる。
 ドミノ倒しのように、アジアが共産化することに怯えたアメリカは、日米安保条約による軽武装親米国家の構築を講和の条件とし、その布石として、在日米軍を沖縄ほか要所に配置したのだ。占領期に発布された、戦後の「日本国憲法」の非戦・非武装のマニフェストは以後、自衛隊違憲論争を巻き起こすなど、様々な波紋を戦後社会に投げかけた。
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