当初から野球ファン向け製品を作ろうとしていたわけではない。ファンバンドの原型とも言える製品は、「気持ちを伝えるリストバンド」だ。電話などの言語によるコミュニケーションではなく、光や音などの非言語でのやりとりで、自分の気持ちを伝えられたら――。そんなコンセプトから始まった。
このプロジェクトを進める段階では、スマホ事業との兼務で新規事業に関わってくれる仲間も複数できた。2013年にファンバンドが新規事業として組織化され、廣澤が専任担当となったころには、10名ほどのメンバーが集まった。
ただ、廣澤がもともと考えていた「気持ちを伝える」という機能だけでは、売り物にはならない。メンバー間でひたすらブレインストーミングを重ねた結果、スポーツ観戦やライブ鑑賞、自らスポーツを行うシーンで広く使えるプラットフォームとして、ファンバンドが生まれた。
各方面向けに試作品を作り、提案をしに行ったところ、地元広島を拠点に活動する東洋カープとの話し合いが、トントン拍子で進んだ。「広島県民は本当にカープが好きで、(メンバーも)カープ向けに作るとなると、俄然頑張りはじめた」。
開発協力は「カープ女子」
野球ファンにとって必要な機能のあぶり出しは、「カープ女子」の助けを借りた。3日連続で行われる試合の初日にカープ女子を集め、バンドの試作品を渡し、試合に同行。一緒に観戦しながら、女子たちの手元をじっと覗き込み、使い方を観察した。
初日の観察結果をもとに、翌日ソフトウェア担当が改修し、2日目にまた女子に貸し出し、また改修……。こうして地道にPDCAを回すことで、野球ファンが本当に必要な機能が見えてきた。
その1つが、腕を振ることでポイントを貯め、人気投票に使うという機能だ。「当初は、応援中の動きにセンサーが反応して、光ったり震えたりしたら楽しいだろうと思っていた。
ただカープ女子を観察していると、イニング(攻守交代)の間にカープのスマホアプリをよく見ることがわかった。それなら、その間にスマホで選手の人気投票ができると面白いだろうと。実際にその機能をつけたら、(人気投票に必要な)ポイントを貯めることを目的に手をふるようになっていた」。
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