モード誌全盛期を生きた50代を取り込めていない
――ハースト社には『COSMOPOLITAN』や『Esquire』など多くのタイトルがありますが、なぜ一度、撤退した『Harper’s BAZAAR』が選ばれたのでしょうか。
初めから『Harper’s BAZAAR』と決まっていたわけではありません。どの雑誌に日本での市場性がありそうか、つらつら読んだり、広告クライアントに話を聞いたりしながら、いろいろと検討しました。それこそモード誌は、日本にも競合が多いですし。
それでもこの雑誌に決まった理由は、いくつかあります。まず、一度、撤退した雑誌とはいえ、前回が“最善”ではなかったことは明らかで、改善の余地がありそうだという本国の見立てがあったこと。あとは、最終的に私自身が編集長として仕切ることになるなら、『ELLE』の編集で培ったノウハウがいちばん生かせそうだという点もそうです。
もうひとつ、これは私の意見でもあるのですが、今のモード誌で取り込めていない顧客がいるのではないかということです。
日本での女性モード誌の創刊ピークから、だいたい25年くらい経ちます。すると当時25歳とか30歳だった人は、今は50歳前後。そこまでの年齢層の人を、きちんと取り込めているモード誌はないと思うんですね。60代、70代まで含めた本当の大人の、成熟したマインドを持った女性に向けたもの。そこに商機を感じています。
セレブを20代から70代までずらっと並べる理由
――ただ、今の30~40代の女性は、身の丈にあった、背伸びをしないおしゃれを楽しむ層が増えているように感じます。そんな中で、モード誌の読者は減っているように感じるのですが。
確かに日本全国、津々浦々に何十万人という読者がいるとは思っていません。日本人は平均的にはおしゃれなのですが、身の周りにいいものがたくさんあるので、身の丈に合っていて、心地よくて、かわいいものでいいじゃない? という意識が強いことは確かです。なので、そういう市場から新しい顧客を開拓しようとは思っていないんですね。
では、どういう読者を想定しているかというと、まず、ファッションにうるさい人。時間もおカネもかなり投資をしていて、自分とファッションの接点が多い。普段と1ケタ違うブランドものにも価値を見いだせて、それを求める自分自身が好きだと思える人。
こうした層は、ただ単に買い物が好きなだけではなくて、カルチャーそのものに興味を持つのが特徴です。つまり、ブランドの背景にある歴史とか、デザイナーがインスピレーションを受けたものとか、そこまで気にします。そう考えていくと、今、主流のモード誌では、やっぱり物足りないんですね。身近な部分を入れないと部数のヒットが出せないので、どれもテイストが似てきます。本来、大事にしなければならないお客さんを取り込めていない可能性は大いにあります。
あと、年齢にこだわらない、イキイキとした女性も、私たちが想定している読者像です。いくつになっても女性がすてきでい続けるための手助けをしたい。たとえばファッションページでは、実在するセレブリティを20代から70代まで並べています。そこで70代なら、顔色がよく見えるよう襟元に赤みが入った服とか、ヒールがそこまで高くない靴とか、ちょっとした工夫をして紹介しています。
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