「五輪の経済効果」は本当に正当化できるのか

雇用への好影響はごく限られた分野しかない

平昌五輪が抱える問題はそれ以外にもある。当初、招致委員会は運営費を150億ドルと見積もり、インフラ整備のための追加予算が――疑わしく思えるほど漠然としていたが――20億ドルから60億ドルかかるとしていた。ところが、その金額はすでにおよそ130億ドルに増えている。

環境破壊の問題も深刻だ。加里王(カリワン)山にオリンピック用のスキー場を建設する目的で、歴史ある保護林の5万8000本の木が伐採されてしまった。韓国の山林庁により、この山は「森林遺伝資源保存のための自然保護地域」に指定されていた。

その理由の1つは、イチイや、朝鮮半島のみに分布するダケカンバの一種などの希少な木が生えていることにある。ガーディアン紙によれば、この地域には「モモンガ、ヤマネコなどの保護種や、植物および鳥類の絶滅危惧種」が生息している。多くの韓国人は、文化的・歴史的に朝鮮王朝に関係するこの山の「500年保護林」を神聖視している。朝鮮王朝において、この山は「立ち入りを禁じられた王の山」だったのだ。

一方、国際建設林業労働組合連盟は、労働者から搾取しているといって平昌オリンピック組織委員会を非難した。コスト削減のために安全を疎かにし、賃金支払いをしょっちゅう遅らせ、時にはまったく支払わないと申し立てたのだ。同連盟によれば、9つのオリンピック関連建設プロジェクトにおいて、2016年3月の分だけでも、未払いの賃金が550万ドル以上に上るという。

政治と金の祭典

オリンピックの運営が腐敗する予兆は、1996年アトランタ大会に現れていた。アトランタオリンピック組織委員会(ACOG)は開催費として22億ドルを調達し、大会後には少しばかりの黒字を計上したが、都市学者のジョン・R・ショートの指摘によれば、「それ以外に、政府の諸機関から20億ドルが支出されている。そのうちの9億9600万ドルが政府出資金、2億2600万ドルが政府基金、8億5700万ドルが地方基金である」。

一部の経済学者はオリンピック開催国に近い国々で雇用がやや増えたことを指摘している。だが、もっと詳しい分析では、経済への長期的な影響はもちろんのこと、有意な影響すら十分に証明することはできなかった。雇用へのポジティブな影響が見られたのはオリンピックの開催期間中のみ、また下記の3部門のみに限られた。

(1)小売り
(2)宿泊飲食サービス
(3)アート、エンターテインメントおよびレクリエーション
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