アニメの可能性を広げる「ネット配信」最前線 「大人アニメ」への期待が高まっている
Netflixのなかで、日本アニメは世界中で見られている。前出・松尾氏はこれを「トラベル」すると表現する。ユーザー数は世界で1億900万人おり、昨年米国のユーザー数をそれ以外の国のユーザー数が上回ったという。190カ国でサービス展開するなかで、日本アニメは米国だけでなく、南米やヨーロッパ、東南アジアなどでコアなファンに支持され「トラベル」している。
世界的には外国コンテンツは吹替えで見るのが標準だが、日本アニメに関しては違う。日本アニメが好きな外国人は「聞いてわからなくても日本語がいい」と、日本語音声の字幕版で見る傾向が、特に南米やヨーロッパで強い。さらにコアなファンは、字幕版と吹替え版の両方を見るそうだ。子どもが見るのは吹替え版だ。大人だからこそ、日本語を音で聴き、読むのが面倒な字幕版を見る。日本アニメが大人に支持されている証といえる。
Netflixは日本でのユーザー獲得に苦戦しているという噂を耳にしていたが、松尾氏にその旨を聞いたところ、「順調に伸びている」という答えが返ってきた。少なくとも計画通りに推移しているとのことだ。日本と似たような環境、似たような人口構成比の国と比較すると、ユーザーの増え方は日本のほうがやや早いくらいだとも。
スタート当初は貧弱だった日本アニメのラインナップも、アニメに特化したチームを作って強化した結果、テレビ放送作品や映画上映作品の独占配信は、この1年でかなり増えた。次に乗り出すのはオリジナル作品だ。
Netflixがオリジナル作品に力を注いでいることはよく知られているが、いよいよ日本アニメでもそれが始まった。
2018年1月5日から、ファーストウィンドウとなるオリジナル作品『DEVILMAN crybaby』を配信している。永井豪の『デビルマン』が原作となる同作品は、テレビ放送では難しいと思われるような表現が多用されている。例えば首が飛ぶ、血がドバッと出る、あるいはお色気シーンなど、まさに永井豪ワールドを体現する。Netflixでは「クリエイティブ・フリーダム」を標榜し、プロデューサーや監督、そして原作や脚本のクリエイティブで自由な発想や表現を最大限尊重することを重視しているのだ。
Netflixが起こす地殻変動
NetflixやAmazonなどのグローバルな動画配信サービスは、日本アニメ調達のために非常に高額な値段を提示していると言われ、通常の5倍から10倍の値がつくこともあると噂されている。フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」や、TBS・MBS系の「アニメイズム」は、Amazonに独占配信権を継続的にセールスしている。フジもTBSも、自社で有料配信サービスを行っているにもかかわらずだ。いかに魅力的な条件かが窺える。
前出・松尾氏は価格水準については言及しなかったが、むしろクリエイターは、世界中に作品を見てもらえるチャンスが広がることをエキサイティングに捉えている。
自分の作品が世界中の人に見てもらえる──。今までになかったことが起きているのだ。豊富な資金、自由な表現、そして世界進出が容易に実現できる。クリエイターから見れば非常に魅力的だ。今後、有力な制作プロダクションが、放送より配信を優先するケースも出てくることも考えられる。
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