闘う現場の本当の敵は官僚的な本社の風土だ

シンプルに伝えたかったら徹底して考え抜け

野中:稲盛和夫さんが創り出した「アメーバ経営」は、ご承知のように組織をアメーバと呼ぶ小集団に分解して、自主的に「全員参加経営」を促す経営管理手法です。アメーバ経営では、「時間当たり採算制度」を導入することで、社員1人ひとりが、採算(時間当たり付加価値)を上げるには何をすればよいかを考えるようになります。

また、自部門では対処できない課題に直面した場合は、他部門と協力して問題解決を試みる。アメーバ経営はつまり、メンバーが主体的に動いたうえで、リーダーがメンバー全員の知を総動員しなければ成立しないシステムなのです。

田村:個人が動くことであらゆるものが繋がり、大きなオープンシステムになっていくのですね。

野中:こうした環境下に身を置くと、メンバーは主体的に顧客と向き合うようになります。全身全霊で顧客と接することで、それまで見えなかった情報が五感で捉えられるようになる。本部にいては捉えられない地域ごとの嗜好や習慣を掴むには、高知支店の事例のようにまずは全員で徹底的に現場を回ることが必要です。

「暗黙知」を共有する場が減少している

野中 郁次郎(のなか いくじろう)/1935年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造勤務ののち、カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にて修士号(MBA)、博士号(Ph.D)を取得。南山大学経営学部教授、防衛大学校社会科学教室教授、一橋大学産業経済研究所教授、北陸先端科学技術大学院大学教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授を経て現職。 田村潤氏との対談イベントが2018年2月8日(木)に東京・有楽町で開催予定。(写真:『Voice』編集部提供)

田村:6年間の高知勤務を終え、四国四県を統括する四国地区本部長を務めたのですが、そのとき感じたのが、「高知で成功した手法が他県でも通じるのか」ということでした。しかし私は、「1人でも多くの高知の人に、おいしいキリンビールを飲んで喜んでいただきたい」という理念のもとに、徹底して現場を回るというスタイルを変えませんでした。しかし結果的にその後の東海地区と本社での成功に繋がり、高知での経験は間違っていないことがわかりました。

野中:地域の「暗黙知」を「形式知」にして普遍化したわけですね。田村さんが実践したように、特定の地域での活動を通して見抜いた本質をビジネスモデルや物語などの「形式知」に落とし込み、普遍化することは、経営を行なううえできわめて重要です。

普遍化にあたり、当然、意見が衝突することもあるでしょう。しかし異なる主観をもつ者同士でも、全身全霊で相手と向き合っていると、ある瞬間に本当の共感が生まれる。これは経験が普遍化されるということです。このように他者との関係性のなかで異なる主観をぶつけ合うことで、互いの視点や価値が共有され、「われわれ」の主観が構築されることを「相互主観性」と呼びます。

ホンダが取り入れている「ワイガヤ」も、三日三晩かけて多いに飲み、語り、議論することで、個々の主観を相互主観性に高めています。多大な労力と時間を要しますが、このようにして身体が共振、共鳴、共感し合わなければ生まれえないものです。

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