闘う現場の本当の敵は官僚的な本社の風土だ シンプルに伝えたかったら徹底して考え抜け
田村:たしかに高知支店でも、若くても男でも女でも「とにかく自分の感じた考えを率直に言う」スタイルを貫いていました。これは議論や創発の場を通して、新たに価値観が生まれる条件だった。
野中:他者と向き合ったときに初めて、自分がやりたいことが見えてくる。それと同時に、「君」や「あなた」の二人称のやりとりを媒介にした共感が起これば、組織はそれを吸収・発散し全体として三人称のかたちに高めてくれる。その意味では、対話による共感の確立が最も重要な経営の種なのです。にもかかわらず現在、ICT(情報通信技術)への依存により、全人的に向き合い「暗黙知」を共有する場が減少しているのは、とても嘆かわしいことです。
田村さんの場合は、場の連鎖を地域で終わらせることなく、全国あるいは世界へと繋げていったという点で、まさにスパイラル運動を実践したといえます。その過程で理念やビジョンをわかりやすく言語化し、メンバーに伝えたことが大きい。何度も同じことを聞かされていくうちに、メンバーのなかで田村さんの言葉が身体化されて、具体的な行動が促されたのです。
シンプルに伝えるには、考え抜かないといけない
田村:理念やビジョンと今日の仕事との繋がりをできるだけシンプルに伝えることは大事ですね。現場が理解できる言葉で伝えないと、営業マンも動けないし、その先にいるお客さまにも通じない。ただしシンプルに伝えるには、徹底して考え抜かないといけませんね。
野中:ええ。理念を考え抜いて凝縮したかたちで言語化する作業は、ものすごく難しい。実際、グローバル企業の理念はそうとう考え抜かれています。
たとえばトヨタの豊田章男社長は、“Creating Ever-better Cars(もっといい車づくり)” というスローガンを掲げています。経営を自動車の比喩で述べれば、スピードに応じて運転席から見える「風景」が変わるなかで、ドライバーである社員1人ひとりに「もっといい車とは何か」を熟考させ、“better” の意味を深掘りさせるという、豊田社長の志が伝わってきます。
田村:理念によって前進するエネルギーが生まれ、お客さまとの関係も強化されます。すると、理念がまた強固になる。理念が強まれば強まるほど、ますます活動のエッジが鋭くなり、井戸を掘り下げるように、深く世界に浸透する考えが生まれてくると思います。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら