次世代ネット検索は日本発? 要素技術はお墨付きだが……
インターネットの検索エンジンは、1強のグーグルに対し、ヤフー、マイクロソフト、中国の百度などが2位集団を作っている状態だが、上位に日本企業の名前はまったく出てこない。
日本はもともと情報検索技術のベースとなる自然言語処理研究では長い蓄積があり、学術面でのレベルは高い。1990年代中盤には、インターネット検索エンジンとして、早稲田大学の「千里眼」、東京大学の「ODiN」、富士通「インフォナビゲーター」、東芝「フレッシュアイ」などさまざまなロボット型検索エンジンが開発された。今となっては、知る人も少ないかもしれないが、当時のネットユーザーの間では、それなりに利用されていた検索エンジンだ。
しかし、結果的に一つも大きなビジネスに育つことはなかった。その理由として必ず語られるのが、「著作権法上、検索エンジンが勝手に他人の著作物をインデックス化することは法的にグレーと考えられており日本発検索エンジンは企業内活用に限られ、事業化が難しかった」(大手電機メーカー幹部)というものだ。
では、著作権法が改正され、インデックス化は合法とのお墨付きがあれば、日本発検索技術が世界に羽ばたいたかといえば、そうではないだろう。大学で一人の優秀なプログラマーが開発した検索技術を素早くビジネスに結び付けるようなダイナミックな事業環境がなかったうえ、何よりも言葉の壁に阻まれた、というのが現実だ。
さらに言えば、ソフトバンクとの合弁で誕生したヤフー日本法人が、東証に上場する日本企業として独特の発展を遂げたことも、検索ビジネスに日本発のブランドが育たなかった大きな理由だろう。
米国同様、著作権法を改正してネット上の情報のインデックス化を認めた韓国ではNHNコーポレーションの「ネイバー」、条例で検索エンジンを認めている中国では百度が地元ナンバーワンの検索サービスに育った。日本でも2009年度には著作権法改正により、検索エンジンの適法化を明示する見通しで、もはや法律のせいにはできなくなる。はたして、日本発の新しい検索サービスは生まれるだろうか。
航空機の安全運航にも生かされる検索技術
「検索はグーグル1強で決まったわけではなく、まだほんの黎明期。パソコンだけでなく、テレビ、カーナビなど多くの分野に情報解析技術が応用されるようになれば、日本のポジショニングを高める大きなチャンスだ」
こう語るのは、経済産業省情報処理振興課の八尋俊英課長。日本長期信用銀行、ソニーなどを経て経産省入りした異色のキャリアの持ち主で、07~09年度の期間限定で経産省が進めている「情報大航海プロジェクト」の推進役の一人だ。
同プロジェクトのポイントは、研究開発支援にとどめず、技術を実際のサービス、ビジネスに結び付ける点にある。たとえば、沖電気工業が開発した対話型の検索エンジン「ラダリング検索エンジン」はリクルートが採用する。ラダリングとは、相手との対話の中で、徐々に掘り下げた質問を繰り返すことにより、相手のニーズや価値観を引き出す手法。確かに、転職先探し、マンション探しなどに応用できそうだ。
ラダリング検索のほか、チームラボが開発した動画検索の「サグールTV」、NTTデータが開発した「時空間情報マイニングサービス」など、さまざまなオリジナル検索技術が、ビジネスの最前線で活用されることを目指している。
問題は、これらの検索技術が本当に他社にはまねのできないものなのかどうか。経産省は米国防総省などの技術コンサルティングを手掛ける米SRIインターナショナルへこれらの技術の検証を委託。その多くが米国では研究事例のないオリジナルの技術である、との“お墨付き”を得た。「欧米ではラッダイト運動以来、機械やロボットは労働者の職を奪う敵という見方が根強い。それに対し、日本は鉄腕アトムのような感情を持ったロボットの開発を目指してきた。そのため検索技術についてもベースとなる発想が大きく異なっている」(八尋課長)。
下の図のようにインターネット情報だけでなく、多種多様な情報を対象にしている点も、日本発技術の特徴だ。たとえば、センサー情報の活用。日本航空インターナショナルが富士通や東京大学と進めている新総合安全運航支援システムは、運航日誌、気象データのような過去から蓄積された膨大なデータと、機体に取り付けられた各種センサーによるリアルタイム情報を組み合わせた情報解析により、予防型の安全管理を可能にする。実証実験の成果には、鉄道など他の公共交通機関からも注目が集まっている。
情報大航海プロジェクトに投入される予算は、3年合計で約140億円に及ぶ。が、いくら国がカネをつぎ込んだところで、グーグルを簡単に生み出せるわけではない。多産多死を覚悟のうえでリスクを取れる民間のマネーが入ってこなければ、活性化はしない。
テレビ、カーナビなどでは、インターネットとの連携で新しいサービスが続々と生まれていく見通しだ。こうしたハードでは、確かに日本企業は強い。しかし、だからといってそのうえで求められるサービスを囲い込むことは容易ではない。スケールに勝るグーグルのようなグローバル企業は、貪欲に自社のサービスに加えていこうとするだろう。日本発の個々の技術がいくら優れているとしても、それを統合したサービスを世界展開できなければ、結局は既存のグローバル企業に負けてしまう。
フェイスブックは04年、ユーチューブは05年に創業したばかりだが、大きくネットビジネスの地図を塗り替えた。新しいビジネスチャンスはいくらでもある。すでに市場は固まっているなどと決め付けず、リスクを覚悟のうえで新しいサービスを次々に生み出すダイナミックさが求められている。
(週刊東洋経済編集部)
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