アイマスの育ての親、「ヘンタイP」の素顔 バンナムの名物プロデューサー坂上氏を直撃

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「アイマス」というコンテンツが拡大する中で、坂上が気をつけてきたのは「こだわりすぎない」ことだ。アニメやゲームでは一世を風靡するも、短命に終わるタイトルが少なくない。坂上はその原因を「ユーザーがコンテンツから離れる」のではなく「コンテンツがユーザーから離れる」からだと説明する。

ライブも毎度大きな盛り上がりを見せている(写真提供:バンダイナムコエンターテインメント)

ユーザーにとっては数ある作品の1つであっても、作り手にとっては長年の努力の結晶。よくあるのが、1作目を作った段階で作り手が満足してしまって次回作が出ないパターンだ。

逆に、作り手側がコンテンツに対して過剰にこだわってしまい、社会的メッセージや難解な哲学、精神的世界の描写などに傾倒して浮き世離れしていくことも多いという。

対して坂上は、生活の中の清涼剤としてユーザーに楽しまれる存在であり続けることを意識しているという。ゲームというカテゴリに対するこだわりもない。「盛り上がるならライブでもアニメでも構わない。ユーザーの要求が先にあって、ビジネスはそれに合わせる形で構築すればいい」と話す。

過去にはネットで炎上したことも

もちろん、すべてが順風満帆だったわけではない。2011年に発売した『アイドルマスター2』では痛い目を見た。発売前のイベントで男性アイドルの追加と、既存アイドルの一部がプロデュースできなくなることを発表した結果、ネットで大炎上。2010年の9月18日の発表日にちなんで「9.18事件」として語り継がれるほどの騒動に発展した。

この「事件」に対して坂上は「ゲームの伝え方を間違えてしまった。『新しく出る男キャラとアイドルたちのあいだを取り持つようなプロデュースゲームになるのではないか』といった誤解を生んでしまった。ユーザーとのコミュニケーション面ですごく反省した」と振り返る。

若手の指導では、「ユーザー第一」を徹底する(撮影:梅谷秀司)

ピンチを乗り越え、巨大コンテンツへと育て上げた今、力を入れているのは後進の育成だ。「年を取ると理屈をこねるのはうまくなるが、時代を肌で理解しているのは20代。いかに彼らにチャンスを与えて、面白いコンテンツを作ってもらうかが大切だ」と話す。

若手への指導でも、「ユーザー第一」の姿勢は変わらない。ダメな企画でありがちなのは、アイデアが先行し、後から想定ユーザーを無理矢理作り出すことだという。それを戒め、「ユーザーのためにアイデアを考える」という姿勢を徹底してたたき込む。

スタートから10年以上経つアイマスだが、ゲーム内のアイドルは年を取らない。若々しい作品を作り続けるためにも、作り手側のアンチエイジングが今後も重要となりそうだ。

渡辺 拓未 東洋経済 記者

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わたなべ たくみ / Takumi Watanabe

1991年生まれ、2010年京都大学経済学部入学。2014年に東洋経済新報社へ入社。2016年4月から証券部で投資雑誌『四季報プロ500』の編集に。精密機械・電子部品担当を経て、現在はゲーム業界を担当。

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