株価が景気実感から離れて上昇している理由 マクロ分析で株価・成長率・景気実感を考える

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マクロ経済で言えば、一国のGDPを分配面からとらえると「雇用者報酬+固定資本減耗+生産・輸入品に課される税-補助金+営業余剰・混合所得(純)」になる。上述のような企業の好業績は、要するに、生み出された付加価値(GDP)の多くが「営業余剰・混合所得」として企業部門に滞留し、家計部門の「雇用者報酬」への分配は控えられたという構図である。それが1990年代後半以降の「失われた20年」の日本経済の姿なのだ。

家計の取り分を犠牲にして、企業の取り分が増加

以上のような数字を見れば「株高にもかかわらず、賃金が上がらない」という嘆きは根本的に的外れで、「賃金が上がらないから株高になっている」というのが正しい理解であることがわかるだろう。要するに本質は「生み出された付加価値(GDP)の取り分」の問題であり、家計部門の取り分をある程度犠牲にしたうえで、企業部門の取り分が増えており、その結果が今の株高となって現れているのである。

もちろん、米国のように家計が金融資産の3割を株式に投じていれば、株高それ自体が資産効果を通じて直接的に家計部門の消費・投資行動を押し上げるという経路に期待が持てる。しかし、日本の家計資産に占める株式の比率はわずか1割程度なので、同様の効果は望めない。株が上がって困るステークホルダーはいないので、それ自体は喜ぶべき現象だが、硬直的な賃金慣行が根づき、国内投資家、特に家計の株式保有割合も低い日本においては株価が上がれば上がるほど実体経済との乖離が目立つようになる。

高止まりする日本のバフェット指標はそのような株価と景気実感の「ねじれ」を映すものにも思える。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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