英国のEU離脱協議、国内強硬派の説得がカギ 2018年に始まる移行期間とFTAを巡る交渉

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移行期間は、離脱後に英国と新たに締結するFTAの発効までをつなぐものだが、FTAの協議開始は3月以降とやや遅れる。EUが協議開始に先立ち、英国に要望を明確にするよう求めたからだ。

英国には青写真はある。理想はデービス離脱担当相が「カナダ・プラス・プラス・プラス」と表現した協定だ。EUがカナダと締結したレベルの高いFTAに、英国の主力産業である金融サービス分野での特別な協定を加えたものだ。カナダ型のFTAは、英国にとって、単一市場に参加するノルウェー型と違い、人の移動の自由、EU予算への拠出、EUルールの受け入れなどの「義務」を伴わないという点でも魅力がある。

しかし、EUとのFTAは、英国の理想通りとはならないだろう。EUは単一市場の4つの自由の「いいとこどり」を認めるつもりはない。一体性を重視する観点から、産業ごとの参加を否定している。カナダ型のFTAの締結には応じる構えだが、金融サービス分野のみ単一市場に残留することを認める特別措置を講じるつもりはない。

離脱後も規制や監督の同等性を評価する既存の枠組みの延長上で、英国からEUの顧客に金融サービスを提供することは認められるかもしれない。しかし、単一市場圏内に比べて自由度も安定性も低下する。円滑な離脱であったとしても、金融機関は離脱に対応して、拠点を再編せざるを得ないだろう。

今後も英国内の分断は協議の進展を妨げる

第1ラウンドの協議は、与党・保守党内での強硬派と穏健派との対立で英国側の交渉姿勢が定まらなかったことで、EU側が想定したよりも、時間を要する結果となった。

EU離脱を巡る閣内、与党内、さらに英国内の世論の分断は解消したわけではない。第2段階の交渉でも、強硬派の主権回復への期待と、経済界や穏健派が抱く経済的な打撃への懸念の双方に配慮を求められる状況は変わらない。英国政府の交渉姿勢は曖昧になりがちだ。

英国、EUともに安易な妥協は出来ないだけに、第2ラウンドの協議も制限時間ぎりぎりの決着とならざるを得ない。しかし、EU側も、英国の政治が混迷を深めて、結果として無秩序な離脱に発展する結果は望んでいない。第1ラウンドの協議では、アイルランド国境問題の事実上の先送りによって決着させる柔軟性も発揮した。

強硬派の「悪い協定なら協定なしのほうがよい」、「第2ラウンドで良い条件が得られなければ第1ラウンドの約束は履行する必要はない」といったスタンスは引き続き脅威だ。

しかし、第1ラウンドの進展で、円滑な離脱への期待はつながった。第2ラウンドも、最終的には現実的な解決策を見出すだろう。英国のEU離脱は物流や金融システムの混乱の引き金にはならないと見ている。

伊藤 さゆり ニッセイ基礎研究所 主席研究員

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いとう さゆり / Sayuri Ito

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)を経て、ニッセイ基礎研究所入社、2012年7月上席研究員、2017年7月から現職。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科非常勤講師兼務。著書に『EU分裂と世界経済危機 イギリス離脱は何をもたらすか』(NHK出版新書)、『EUは危機を超えられるか 統合と分裂の相克』(共著、NTT出版)。アジア経済を出発点に、国際金融、欧州経済を分析してきた経験を基に、世界と日本の関係について考えている。趣味はマラソン。

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