アマゾンの「データ分析」はここまで徹底する 礎を築いたキーマンが著書で明かす裏側

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しかし残念ながら、そのことばかりに意識を集中させていると、多少なりとも肩透かしを食らうことになるかもしれない。なぜならこれは「アマゾン誕生秘話」のたぐいではなく、描かれているのは「アマゾンの礎を築いたビッグデータ専門家が明かす、大手データ企業の戦略」だからだ。

想像もつかないほど地道な作業が行われていた

印象的なのは、2000年代初頭のアマゾンで、さまざまな実験が行われていたことが明らかにされる第1章「データの積み重ねが財産になる」だ。ここを読むと、私たちアマゾン・ユーザーには想像もつかないほど地道で、気の遠くなるような作業が行われていたことがわかる。

私が2002年に入社した当時、アマゾンが掲げていた目標の一つは、郵便番号レベルの分析を超えて、顧客とサイトとのすべての交信を最大限活用することだった。私のチームは一人ひとりのユーザーについて、500項目の個人的属性を明らかにした。出発点となったのは次のような質問群だ。商品の届け先住所から一番近い書店あるいはショッピングセンターとの距離によって、顧客がアマゾンで買い物をする頻度や購入金額は変わるだろうか。顧客が利用するクレジットカードによって、将来の購買パターンについて何か予測できないか。2つ以上の商品カテゴリーで買い物をした顧客は、本しか買わない顧客より1年間の買い物総額が多いだろうか。昼と夜とで同じ顧客でも買うものは違うだろうか。われわれの分析結果が、広告宣伝と値引きのどちらに販促費を投じるべきか、といったアマゾンの意思決定の材料となることもわかった。(36ページより)

このようにクリックと購入のデータを統合して推奨システムを構築し、アマゾン以外の出品者がAmazonサイトで商品を販売するためのプラットフォームもつくり、そうした企業の商品を保管するための倉庫スペースも提供。そこまですることによって、分析に使えるデータの範囲はさらに広がったというのである。

もちろんeコマースにおいて、データを保存することそれ自体は革命的でもなんでもない。至極当然のことである。ただ、アマゾンと他の小売業との決定的な違いは、顧客が自らの興味、好み、そのときの状況に応じて「何を買うべきか」判断するのに役立つようにデータを生成することへのこだわりだと著者は強調する。たしかにそれこそが、プラットフォームとしての価値なのだろう。

もうひとつ、「なるほど」と感じずにはいられなかったのは、第2章 「『いいね!』はあなたを映す鏡」におけるプライバシーについての考え方だ。まず、ここでスタートラインと位置づけられるのは、私たちの祖先の時代だ。当時、人々は大勢で炉を囲み、村のゴシップに花を咲かせた。そこにはプライバシーなど皆無であり、そもそもプライバシーを誰も期待していなかった、あけっぴろげな時代だったというのである。

そののち都市への人口流入が始まり、社会的匿名性とプライバシーが誕生する。プライバシーは「権利」と考えられるようになり、それは法的保護の対象にもなっていく。

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