「親を殺したい」虐待された子どもたちの叫び

「クソ」「死ね」と当たり前に言う親たち

あとで知ったことだが、母は自分の母に愛されていなかった。結婚した夫は一流企業に勤めていたものの人間関係でつまずいて退職。それからは酒を飲んでは暴れた。そのストレスが娘に向かったのかもしれない。

そして由香里さんは、母に虐待されると、7歳年下の弟をいじめた。心のゆがみや虐待は弱いほうへとしわ寄せが来る。10代のころはいつか母を殺してやろうと思っていたそうだ。

「刺殺より、素手でぼこぼこにして苦しむところを見たいと思っていた。ただ、自分の手を汚したら負けだという気持ちが殺意を上回った。私、空手を習っていたんですが、その先生がとてもいい人で、ときどき自宅でごはんを食べさせてくれたんです。親のことは話せなかったけど、今思えば救われていたんですね」(田中さん)

彼女は26歳で結婚し、そこからカウンセリングを受けるようになった。そして虐待や内省、心理学などを勉強。母親にもさまざまな講座の受講をすすめた。10年かかってようやく母も気づき、彼女に謝ってくれたが、由香里さんの心がすっきり晴れたわけではない。それでも、なんとか母との関係は修復しつつある。

このように親との関係を再構築できる人もまれにいるが、虐待された子の多くは親を見限ることができずに苦しむ。

「そんな親は捨ててしまってもいいんです」

虐待された人たちからの手紙を集めた本『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』の編著者である今一生さんは、そう断言する。

虐待から逃れる方法

「子どもの虐待」をテーマに千葉で開催された今さんの講演会。当事者らも参加

「虐待する親の共通点は、社交性があるように見えて孤立している、家の中のことを話すのは恥だと思っている、相談相手を自分で調達できない、など。子どもは親の笑顔が見たくて、叱られないようにいい子であることを自分に課すようになります」(今さん)

では、虐待から逃れるにはどうしたらいいのだろう。

「経済的に自立できるようになれば、虐待する親からいつでも避難できます。実際、14歳の起業家もいます。小学生のうちからそういう教育をすれば救われる子が増えると思うんです」(今さん)

また、意外にも子育て支援の取り組みが虐待防止に役立つ、と今さんは期待する。

「子どもの送迎や託児を頼り合える仲間を作る『アズママ』という会社があります。スーパーなどでイベントを開き、集まったママ同士をつなげ、1時間500円程度で子育てを助け合える仕組みを全国で事業化しています。

虐待する親は、そもそも虐待の意識がないし、孤独だからそういう場には来る。そこで他の家庭、他の子育てがオープンになると虐待児を発見しやすくなる。当の子どもが自分の家の異常さに気づくチャンスにもなる」(今さん)

そして周りができることは、とにかく異変を感じとったら、189に電話すること。普通ではない子どもの泣き方、不可解な親の怒鳴り声が聞こえる、いつも同じところに座り込んでいる子がいるなど、何かおかしいと思ったら通報したほうがいい。

虐待されている子の命が失われないために、そして虐待された子が長じて親を殺したりしないために──。

(取材・文/ノンフィクションライター 亀山早苗)

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