映画「デトロイト」が掘り起こす米国の暗黒史 東洋経済オンライン読者限定試写会を開催!
本作の舞台は、暴動発生から3日目の夜に、若い黒人客たちでにぎわうアルジェ・モーテル。おもちゃの銃の音を「狙撃犯の発砲」と誤認した白人の警官と州兵が、偶然そのモーテルに居合わせた若者たちを捕まえ、「銃をどこに隠した?」と暴力的に尋問。それがやがて新たな惨劇を招き寄せていくさまが描かれる。
特に40分にわたる白人警官の尋問・暴行のシーンは、恐ろしいまでの臨場感で観客に戦慄を走らせる。その容赦ない描写は、『ゼロ・ダーク・サーティ』の拷問シーンで賛否両論の渦を巻き起こしたビグロー監督ならではといえるだろう。
若者たちを尋問する人種差別主義の白人警官を演じたウィル・ポールターにとっては、役柄のうえとはいえ、撮影を離れれば仲がいい若き俳優たちに暴行を加えることは非常な苦痛を伴なったといい、「あと何回このシーンを撮らないといけないんですか?もう耐えられません」と泣き崩れたこともあったほどだという。
警官役が「耐えられない」というほどの描写
一方、暴行を受ける側であるラリー・リード役の黒人俳優アルジー・スミスも「演技をするだけでもこれほどの苦しみや痛みを感じるのだから、これが現実だったらなおさら痛ましいものだったに違いない」とポールターをおもんぱかるほどに壮絶なシーンとなっている。
映画の時代背景を見てみよう。アメリカ中西部のデトロイトは、大手自動車メーカーのGMの本社があるなど、自動車産業が盛んな工業都市として知られる。そこでは労働者不足を補うために黒人労働者を多数雇用してきた、という歴史がある。
余談であるが、『デトロイト』で描かれた時代の後、1970年代に入ると自動車産業が衰退し、失業者が増加した。さらに暴動の余波などもあり、デトロイトから去る人も増えていく。不況と人口の減少によるスラム化で、治安は悪化していく。そんな現状に不満を抱く白人層が、現在のトランプ大統領を支持する層につながっていると言われている。
また、デトロイトは、世界中で知られるソウルミュージックのレーベル「モータウン」発祥の地としても知られる。自動車の街「モーター・タウン」から名付けられた同レーベルからは、スティーヴィー・ワンダー、ダイアナ・ロスら数多くのビッグアーティストを輩出、1960年代はモータウン全盛期として世界的な人気を博した。
デトロイトは経済的にも文化的にも注目の街であっただけに、その暴動の衝撃は大きかったはずだ。本作には、モーテルで、白人の警官に暴行を受けた若者たちのひとりとして、地元デトロイトのR&Bグループ、ザ・ドラマティックスのリードシンガーだった、ラリー・リードが登場する。ドラマティックス自体はモータウン所属のアーティストではないが、現在までメンバーを入れ替えながら活動を続けている実在のグループである。そして映画の中では、リードの目を通して、デトロイトにおけるショービジネスの側面にもスポットが当てられる。
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