半世紀ぶり国産旅客機MRJ--三菱重工、航空機自立への最終切符
「性能」でしか勝負できない 型式認証が最大のカギ
MRJは、できるなら、日本の高品位の労働力を使いたい。が、機体メーカー自身が部品からシステムを組み上げてきた日本では、システム屋が育っていない。海外メーカーなら、扱う絶対量が違うからコストがこなれ、トラブルの不安も小さい。
だが、敵と同じ方式(しかも、敵はそれを使いこなしている!)で、相手を上回ることができるのか。戸田社長が強調するのは、“コミットする”システム発注だ。「基本機能は同じでいい。カスタマイズするときは、サプライヤーの現場にわれわれも入って行く。半分はあなた、半分は私。一緒に原価低減をやる。すべてのシステムについて、相手と新しい関係を作り込んでいく」。
心配し始めたら、キリがない。
ボンバルディアの航空機部門、エンブラエルの利益はそれぞれ350億円(金利前税前利益)、550億円(税前利益)と、三菱重工の航空機部門の146億円(営業利益)を上回る。CRJ、ERJの累計受注機数も、ともに1500機以上。
もし、両社が戦略的なディスカウントを仕掛けてきたら、1800億円の開発費を背負うMRJは価格的に太刀打ちできない。販売力も、まだまだ心もとない。三菱航空機には出資商社から“売る”専門家が出向して来た。が、「商社にもYSの経験者はほとんどいない。エアラインから売り込み方を教わりながら、勉強しているところ」(大手商社幹部)。
詰まるところ、MRJが勝負を懸けるのは、「性能」しかない。飛ばしてなんぼ。性能を実証してみせることが、売れ行きに直結する。
実証の第1関門は、FAA(米国連邦航空局)の型式証明取得だ。戸田社長が言う。「スケジュールどおりに型式証明を取ることが、最重要課題。型式証明が1年遅れれば、それだけ他人に市場を奪われる」。
三菱重工には苦い経験がある。ビジネスジェット機のMU300。前評判は上々で型式証明取得前に100機以上受注したが、DC−10の墜落事故でFAAが規制を強化。MU300は適用第1号となり、もめにもめた。証明取得は予定より2年遅れ、キャンセル続出。結局、ビーチ社に身売りする憂き目を見た。
今回、MU2やMU300の型式証明を経験したOBを招き、FAAのDER(認定品質検査官)も雇い入れたが、十分ではない。最も頼りにしているのが、ボーイングだ。
昨年のパリ・エアショー。ボーイングと三菱重工の両首脳は「MRJが両社にとって重要なプログラムであること」を確認した。「世界ではMRJはBoeing’s Kissed Airplaneと呼ばれている」と三菱重工の大宮社長。以来、型式証明取得への技術支援はじめ販売からカスタマーサポートまで、幅広い協力をボーイングに要請し続けて1年以上。最近、ようやく支援契約の締結にこぎ着けた。