半世紀ぶり国産旅客機MRJ--三菱重工、航空機自立への最終切符

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半世紀ぶり国産旅客機MRJ--三菱重工、航空機自立への最終切符

7月中旬、ロンドン郊外のファンボローで開かれた国際エアショー。いやが上にも期待は膨らんでいた。

半世紀ぶりの国産旅客機となる三菱重工業のMRJ(三菱リージョナルジェット)。3月末、全日空から25機の発注を受けて以降、後が続かない。いや、続かないのではない。ファンボローのエアショーという華々しい舞台で発表するためにあえて“ため込んで”いるに違いない--。

ファンボローのMRJのブースにはあらかじめ招待状を送っていた世界のエアライン、業界のキーマンたちが引きも切らず訪れた。が、結果的に新たな受注の発表はなかった。三菱重工の川井昭陽常務は、むしろサバサバしていた。「買うほうが慎重になるのは当たり前。40~50年前、日本が初めてクルマを輸出したとき、米国の顧客はどう受け止めたか。注文が集まるのは、実際にMRJが飛んで、性能が証明されてから」。

3月末、三菱重工がローンチ(開発着手)したMRJは、70~90席のリージョナルジェット機(RJ)である。RJとしては世界で初めて炭素繊維複合材の主翼と尾翼を持ち、燃費は競合機を2~3割上回る。主として地方路線を飛ぶが、シカゴからなら北米全域、パリ発なら欧州全域をほぼカバーできる。小なりとはいえ、れっきとした旅客機だ。

防衛は先細り 迫る中国の脅威

YS−11の生産中止以来、旅客機の自主開発は日本航空産業界の、そして三菱重工の悲願だった。

YS−11の54%を担当した三菱重工は、YS以後も、独自にターボプロップ(プロペラ)の小型ビジネス機MU2(7席)、ビジネスジェット機MU300(9席)を開発したが、事業的にはいずれも失敗。1999年に初の純国産の民間ヘリコプターMH2000を発売したが、これも開店休業となった。

ビジネス機もヘリコプターも、何ひとつモノにできなかった。まして旅客機は、“小さな”MRJでさえ、開発費1800億~1900億円。トライスターの失敗でロッキードは民間機部門から撤退し、DC−10の挫折がダグラスをマクドネルとの合併に追い込んだ。旅客機の成否は企業の生死に直結する。航空機ほどヤバイ商売はないのである。

だから、今回も、最初はおっかなびっくりだった。MRJはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「環境適応型小型航空機」研究プログラムに応募したのが始まり。想定したのは30席の機体だった。ビジネス機に毛の生えた規模であり、まあ失敗しても、傷は小さい。当時、三菱重工の「名航」(名古屋航空宇宙システム製作所)所長だった戸田信雄・三菱航空機社長も「正直、できるのか」という思いだった。

それが一転、「大決心」をし、座席数を70~90席に切り上げ、本格的な開発に大旋回したのは、三菱重工の切迫した危機感からだ。

三菱重工の航空機部門は三つの旗を掲げている。【1】戦闘機の全機(丸ごと)開発、【2】民間機の国際共同開発、【3】小型民間機の全機開発。ところが、まず【1】が危うくなった。複合材主翼の技術を磨いたF2(支援戦闘機)は予定調達機数のはるか手前で生産中止となった。このうえFX(次期戦闘機)として米国のF22「ラプター」が輸入されることになれば、1950年代のF86以来、三菱重工が独占してきたライセンス生産の“取りまとめ”の仕事もなくなってしまう。

【2】の国際共同開発は、787の主翼を担当し、サプライヤーの最上層である「ティア1」の地位を確立した。が、これも安泰ではない。今年、787とMRJに専念するため、三菱重工はカナダのRJメーカー、ボンバルディアから請け負った胴体・尾翼生産の返上を決めた。特損270億円を計上しての撤退だが、「返せたこと自体、(後を引き継ぐ)後発国の追い上げがあるということ。高付加価値を追求しなければ、ボーイングの下請けさえ危うい」。三菱重工・大宮英明社長の認識である。

F2の複合材主翼がそうであるように、全機開発(取りまとめ)を担当し、最先端情報を吸収し続けることで高付加価値技術が獲得できる。【1】の全機開発が当面、望み薄である以上、【3】の民間小型機の全機開発に本格アタックしなければ、【2】の共同開発での優位を維持できず、【1】もさらに遠ざかる構図なのである。

まして、中国が参入する。RJ市場は現在、ボンバルディアとブラジル・エンブラエルの2社が完璧に押さえているが、そこにMRJより一足先に、ロシアが「スーパージェット100」、中国が「ARJ21」を引っ提げて乗り込んでくる。

三菱航空機の戸田社長が言う。「ARJそのものは一昔前の技術。が、すでに宇宙では(有人飛行を実現した)中国に水をあけられている。航空機でも、一つ機体をまとめたら、弾みがついて一気にガーンと行く可能性がある。もう、待てない」。

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