27歳で引退、「高卒ドラフト1位」が見た真実 プロ野球のルーキー選手たちを待ち受ける壁

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イップスとは、もともとボールをコントロールできていたプレーヤーが自分の思うように投げられなくなる状態を指す。故障をきっかけに発症することもあるが、ほとんどは心因性だといわれている。心が体の動きを邪魔してしまうやっかいな症状だ。

増渕は思い切り投げることができなくなってしまった。ボールを持っている感覚さえ失ったという。それまでは「イップスって何?」と思うほど頓着することがなかったのに、ある日突然、イップスに襲われてしまったのだ。

「コントロールやキレを意識しすぎたせいではないかと思います。思い切り腕を振ることができなくなりました。バッターと勝負しなければいけないのに……。コースを狙って投げようと考えすぎると、うまく投げられない。それからおかしくなりました」(増渕)

周りの人からはさまざまなアドバイスをもらったが、症状はよくならなかった。周囲のアドバイスが心の負担にもなった。

「ボールを投げる感覚は人それぞれなので……どうしてもコースを狙う意識が強すぎて、うまくいきませんでした。いろいろ試しましたが、結局、治りませんでした」(増渕)

ネットに向かって投げるネットスローを繰り返したし、遠投をして最適なリリースポイントを探しもした。専門医を訪ね、メンタルトレーニングも行った。しかし、ピッチングの感覚を取り戻すことはできなかった。

「ピッチングらしいピッチングもできないのに、給料をもらうことが申し訳なくて……チームに貢献できるようにと頑張ったのですが。2015年は、もがき苦しみながら過ごした1年です。投げることが嫌になって、キャッチボールもしたくない。これ以上続けたら、野球が嫌いになると思いました」(増渕)

プロ野球に挑むルーキーへの提言

 シーズン後に戦力外通告を受け、ユニホームを脱ぐことを決めた。潔すぎる引退だった。

「それまで悔いが残らないように練習をしてきたつもりなので、悔しいですが、『やることはすべてやった!』と思えました」(増渕)

高校時代にどれだけすごい成績を残しても、プロ野球で活躍することは難しい。実績をどれだけ積み上げても、それをプロ野球に持っていくことはできない。プロの世界で長く活躍するために必要なことは何なのだろうか。

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「プロに入ればいろいろな課題が出てきます。でも、大事なことは、ドラフトで指名された自分の長所を見失わないことと、焦らないこと。最初からいい成績を残したいと思うでしょうが、1年目から活躍できる高卒ルーキーはほとんどいません。3年目に結果を残せるように考えてほしい」

「コーチからもいろいろなアドバイスをもらいますが、自分に合ったものだけ取り入れて、そうでないものは聞き流していい。樹でたとえるならば、幹がまだ育っていないのに、枝ばかりを増やしても仕方がない。壁にぶち当たれば弱気になることもあるでしょう。でも、1年目、2年目、3年目の目標をしっかり持って、地道にコツコツやることが大事だと思います」(増渕)

(文中敬称略)

元永 知宏 スポーツライター

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もとなが ともひろ / Tomohiro Motonaga

1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て、フリーランスに。直近の著書は『荒木大輔のいた1980年の甲子園』(集英社)、同8月に『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)。19年11月に『近鉄魂とはなんだったのか? 最後の選手会長・礒部公一と探る』(集英社)。2018年から愛媛新聞社が発行する愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(エッジ)の創刊編集長。

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