11月2日、トランプ大統領は次期FRB議長にパウエルFRB理事(64歳)を昇格させることを発表した。同氏は法律専門家で、ウォール街出身だ。10月13日にFRB副議長に就任したクオールズ氏とは同僚で、同様に金融規制の見直しに理解がある。共和党主流派と近く、ムニューシン財務長官が推薦していた。
2012年からFRB理事を務めているが、中道派として議長を支え、FOMCで反対票を投じたことはない。バーナンキ前FRB議長は回想録で、パウエル氏を「穏健で合意形成を重んじる人」と記している。有力候補者の中ではハト派と位置付けられたが、イエレン議長の緩やかなペースでの利上げ路線を引き継ぐとみられる。トランプ大統領は独自色を出すため、議長交代を優先させた。しかしながら、過去4人のFRB議長がエコノミスト、経済学者だったことから、パウエル氏の力量を不安視する声もある。
パウエル議長、いずれは手腕が問われる場面に
現在のように世界経済が回復軌道にある間は、誰がやっても同じと思われるが、手腕が問われるのは株価の急落や、景気に変調を来たした(後退期に向かっていく)時だろう。かつて1987年、グリーンスパン氏が議長に就任した2カ月後に、ブラックマンデーに見舞われた。その危機に迅速な流動性供給で対応し、市場の信認を得たのは語り継がれる武勇伝だ。あれから30年、現在の米株は過熱感なく高値圏での推移を続けている。その前提には、利上げ局面でも2%台前半で低位安定する米長期金利の存在がある。引き続き市場とのコミュニケーションは重要となろう。
まずは、11月28日に上院銀行委員会でパウエル氏の公聴会があり、お手並み拝見となる。足元で米国経済は3%成長を持続している。新議長が就任する頃(就任日は来年2月4日)の18年1~3月期にその反動減が出てこないか、まずは注意する必要がありそうだ。
なお今月14日のECB(欧州中央銀行)主催の会合でイエレン議長は、「市場は金融政策の確実な方針を求める」と語った。思い返せばイエレン氏も、議長就任後初の2014年3月FOMC後の会見で、洗礼を浴びていた。利上げ時期について聞かれて、量的緩和終了から「相当の期間」と答えて、「おそらく6カ月かその辺り」と具体的に言及。この発言で市場の利上げ前倒し観測が強まり、米株、米債を急落させた。スタート時の明らかな失敗が、その後の彼女を安全運転に導いたと言っても過言ではない。29日にはイエレン議長も議会証言の予定だ。議長を退いても、2024年1月まで任期が残る理事ポストにとどまる観測も絶えず、本人の心中を汲みとれる機会となろう。
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