温暖化対策は先進国と中印の協力が必要だ−−ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授
ブッシュ大統領は国際的な気候変動のリスクをやっと認識し始めたようだが、ブッシュ政権は8年間にわたってこの問題で主導権を発揮することはなかった。おそらく大統領選挙後、政策は変わるだろう。バラク・オバマ民主党大統領候補とジョン・マケイン共和党大統領候補の2人は、より真剣に気候変動問題に取り組むと約束している。
大気中に蓄積され、気温上昇の主因である二酸化炭素の排出は、経済活動の副産物である。二酸化炭素の排出は経済学者が“負の外部効果”と呼ぶものである。二酸化炭素を排出する企業や個人は、二酸化炭素によってもたらされる損害の費用の全額を負担する必要がないため、自ら進んで排出量を減らそうとはしない。
それは喫煙と似ている。非喫煙者はたばこの煙によってもたらされる医療費を負担しなければならない。しかし喫煙は課税や規制で減らすことができるが、二酸化炭素の過剰な排出を規制する世界政府は存在しないし、各国は解決をほかの国に任せようとしがちである。さらにシベリアが温暖化することで経済的恩恵を受けるロシアのような国もあれば、地球温暖化に伴う海面の上昇で洪水の被害を受けるバングラデシュのような貧困国もある。
科学者は、気候変動が干ばつや飢饉という深刻な災害を引き起こし、多くの人命が失われる可能性があると予想している。今後30年間に気温が1・6~2・8度上昇すれば、海面は50センチメートル上昇すると予想されている。
これは控えめな推計である。北極の氷が溶け、永久凍土層から二酸化炭素とメタンガスが放出されて温暖化がもっと急激に進めば、海面が上昇して、海抜の低い島が海中に没し、国家の存続が脅かされる事態も起こるだろう。同時にアフリカや中央アジアの水不足がさらに深刻になり、干ばつで食糧供給も減るだろう。
気候変動によって引き起こされた外的なショックは先進国にも影響を及ぼす。海面の上昇でモルディブ島が洪水に見舞われる事態になれば、気候変動の影響は核爆弾と同じくらい破壊的な影響を及ぼす。その被害はフロリダやオランダにも及ぶだろう。
気候変動が国際紛争の火種になるリスクも
そうした外的ショックは先進国と途上国の所得格差を拡大させ、気候変動の影響の少ない先進国に向かって、途上国から大量の移民が流入するという新たな事態をもたらすかもしれない。さらに気候変動は途上国の政府に対する圧力を強め、多くの国が対応に失敗し、国際紛争の火種になるかもしれない。潘基文・国連事務総長は「(スーダンの)ダルフール紛争は気候変動から生じたものである」と語っている。人間活動がもたらす直接的、間接的な影響はテロのような悪意を持った行動と違うので、安全保障や政策について新しい考え方が必要になる。
二酸化炭素の排出量を減らす手段、すなわち地球温暖化を緩和する手段は二つある。技術革新とエネルギー効率の改善である。たとえば、炭素隔離によって炭素を回収し、地下層や深海に貯留することができる。それによって二酸化炭素の大気中への放出量は減ることになる。