温暖化対策は先進国と中印の協力が必要だ−−ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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 しかし、技術革新だけでは不十分で、経済的対策も必要である。いわゆる排出権取引制度は、二酸化炭素の排出量を管理することを目的としたものである。化石燃料の消費を減らすために炭素税も提案されている。

もっとも、誰もがそうした対策に賛成しているわけではない。2007年に中国は二酸化炭素排出量で米国を追い抜いた。しかし、中国は1人当たりの排出量を問題にし、「米国の排出量は中国の5倍もある」と主張している。中国やインドは、「地球温暖化は先進国の経済発展によって引き起こされたものであり、途上国は排出量が先進国並みに到達するまで削減する必要はない」と主張している。

中国は二酸化炭素排出量の多い石炭を使ってエネルギー需要の70%を賄っているが、米国ではその割合は3分の1にすぎない。中国はエネルギー集約的な産業を維持するためにエネルギー源の確保に努めており、石炭は重要なエネルギー源となっている。伝統的な安全保障政策の有効性が薄れているとすると、先進国はエネルギーの争奪という安全保障に対する新しい脅威にどう対応すればいいのだろうか。

07年に国際エネルギー機関が発表した報告書は、中国とインドがエネルギー効率を高めることができるように先進国が協力するよう促している。気候変動を阻止し、安全保障を確保するために、先進国は中国やインドなどと協力し創造的なアイデアを作り出し、技術開発を進め、政策を策定する必要がある。

気候変動は環境、経済、安全保障の面で重大な意味を持つ国際的な課題の一つであると認識されつつある。マケイン候補とオバマ両大統領候補の声明には勇気づけられるものがある。どちらが大統領になろうとも、気候変動で国際的な合意を達成する必要があることに変わりはない。

ジョセフ・S・ナイ
1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

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