弱い地方組織の元凶、選挙制度の不均一 自民党がうまくやることを、なぜほかの政党は真似できないのか?

✎ 1〜 ✎ 10 ✎ 11 ✎ 12 ✎ 13
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

国政を変えるために地方の選挙制度を変える

この困難を助長するのは、国政と地方政治の選挙制度の不均一である。国政では小選挙区制を中心に部分的に比例代表制が採り入れられる混合制度であるのに対して、地方政治では、一人が選ばれる首長選挙と、市区町村の大選挙区制、都道府県・政令指定都市の中選挙区制と小選挙区制が混在している。

上神貴佳著『政党政治と不均一な選挙制度』(2013年、東京大学出版会)国政・地方政治に加えて党首選挙を含 めた「不均一な選挙制度」が政党にどのような影響をもたらすか分析した好著

国政では、1990年代の選挙制度改革以降、政党交付金制度の導入も相まって政党執行部が強化され、有権者も政党を重視して投票を行う度合いが高まった。しかし地方では、依然として政治家個人への投票が重視されがちな制度なのである。

地方議員を中心とする地方の政治家は、個人として有権者に顔を売ることには積極的でも、政党としてのブランドを確立しようとはしない。そもそも地方で「組織」を作るためのコストなどかけたくないのだ。

地方組織を作りにくくする選挙制度の不均一の下で、なぜ自民党は地方組織の形成に成功しているのだろうか。それは、当選後、自治体レベルの政策に関与するためには、地方議会の多数派を形成すること、議員がまとまることにメリットがあるからだ。さらに、長期政権下では党を通じて国の政策に影響を及ぼすこともあった。まとまった地方組織であるほど、国政への発言力が強化される側面があったと考えられる。

それに対して、議員数が非常に少なく、多数派の形成に影響力のない政党が、地方議会で組織化されるメリットは少ない。反対に言えば、新しい政党が一定の議席を占める自治体では、それなりにまとまりも生まれている。しかし多くの自治体では、議員が少ないから地方組織としてまとまらず、まとまらないから選挙にも弱いという悪循環がある。

地方の選挙制度は国政に直接関係ないように思われる。しかし、両者の連動を考慮すれば、国政で健全な政党を生み出すためには地方の選挙制度改革こそが重要になるのだ。

 

【初出:2013.8.31「週刊東洋経済(ワーキングマザー)」

(担当者通信欄)

国政選挙と比較してみると、地方の選挙では有権者の関心、投票率が如実に低い場合がしばしば。自分自身を振り返ってもニュースや候補者の情報への接し方が違っていたかもしれません。国政と地方政治やそれぞれの選挙制度の違いを注意深く比較してみる機会は、そう多くありませんが、知らず知らずのうちに政治、選挙結果に影響を与えうる相違をしっかりと踏まえておくことや両方を考慮に入れる、ということを意識して行わなければ、選挙制度の見直しにせよ、有権者の投票にせよ、意味が薄まってしまうのかもしれません。

さて、砂原庸介先生の「政治は嫌いと言う前に」最新回は2013年9月23日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、物流最終戦争)」に掲載です!

【たとえ祈っても願っても、理想の政治はやってこない】

一年にわたる連載も今回が最終回です!
 日本において政党とはどのような存在なのか、法の下でどのように規定され、有権者にどのようなイメージを持たれているのか? 単なる個人の集合ではない「組織」としての政党を、いかに機能させていくのか? これらを検討していくことの必要性に迫ります


□□宣伝□□
砂原先生も寄稿の『政党組織の政治学』(建林正彦・編)を弊社より刊行いたしました。ぜひ本連載と併せてお読みください。

 

 

大阪―大都市は国家を超えるか』(中公新書)。 橋下改革の最前線にある大阪市立大学から、地方自治の専門家として国家と対峙する大都市「大阪」の来歴と今後を議論します

 

 

砂原 庸介 政治学者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

すなはら ようすけ / Yosuke Sunahara

1978年7月生まれ。2001年東京大学教養学部卒業、東京大学大学院 総合文化研究科 国際社会科学専攻にて2003年修士課程終了、2006年博士後期課程単位取得退学。2009年同大学院より、博士(学術)。財務省・財務総合政策研究所の研究員、大阪市立大学などを経て、2013年より大阪大学 准教授。専攻は行政学、地方自治。地方政府、政党の専門家として、社会科学の立場から学術研究に注力する。傍ら、在阪の政治学者として、地方分権や大阪の地方政治について、一般への発信にも取り組む。著書に、『大阪―大都市は国家を超えるか(中公新書)』(中央公論新社、2012年)、『地方政府の民主主義―財政資源の制約と地方政府の政策選択』(有斐閣、2011年。2012年日本公共政策学会 日本公共政策学会賞〔奨励賞〕受賞)、共著に『「政治主導」の教訓:政権交代は何をもたらしたのか』(勁草書房、2012年)、『変貌する日本政治―90年代以後「変革の時代」を読みとく』(勁草書房、2009年)など。
⇒【Webサイト】【ブログ sunaharayの日記】【Twitter(@sunaharay)

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事