彼らはなぜタイに「墜ちた」と揶揄されるのか バンコクコールセンターで働く日本人の実態

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日本最大の電子掲示板サイト「2ちゃんねる」には「バンコクコールセンターに堕ちた人たち……」というスレッドが立っており、コールセンターの待遇やオペレーターたちを誹謗 中傷する過激な書き込みが展開されている(ちなみにそのサイトではコールセンターのことは「コルセン」と省略形で呼ばれている)。

注意深く読むとほとんど差別的ですらある。そもそも「堕ちた」というタイトルからしてすでに上から目線だ。

「オペレーターたちも周りからそう見られているって薄々気付いています。だから劣等感も持っている。でも別にオペレーターたちは悪いことをしているわけではないし、普通の生活を送っているわけで、ご飯を屋台で食べるなどタイの一般庶民と同じような生活をしている。ところが日系企業の駐在員からしたらそれは下にいる人に見えるわけですよね?

すごく蔑まれている気がします。『お前ら日本人だったらもっと高い給料もらえよ』って。でもみなさん真面目だし、悪く言われる筋合いはありません。みんな自分の可愛い部下ですから。世の中に迷惑をかけているのであればもちろん自分も謝りますけど、迷惑なんてかけていません」

センター長としての立場も踏まえた、実に素直な意見だと思った。

バンコクのオペレーターたちが蔑まれる一つの理由として、海外就職に対するかつての華々しいイメージが関係しているようだ。

つまり、「海外で働く人たちは英語が堪能で、能力の高い選ばれた人たち」という先入観である。一方で、ネットに掲載されたオペレーターの応募条件は、①日本語ネーティブ、②性別・語学力不問、③高卒の22歳以上が条件で、それは「日本語ができれば誰でも務まる」とも解釈できる。

ここに海外就職の理想と現実のギャップが生まれ、わざわざ海外にまで来て日本語しか使わないコールセンターで働くという選択肢が理解されにくいのではないだろうか。

現地採用と駐在員

もう一つは、海外在留邦人社会はその狭さゆえか、見えないヒエラルキーが形成されていることだ。

外務省の海外在留邦人数調査統計によると、2015年10月現在、タイの在留邦人は約6万7400人で、米国(約42万人)、中国(約13万人)、オーストラリア(約8万9000人)、英国(約6万8000人)に続いて5番目に多く、英国を抜く勢いで増えている。東南アジアでは2番目に多いシンガポール(約3万7000人)を大きく引き離して断トツである。

日本で言えば眼鏡で有名な福井県鯖江市、静岡県伊東市などと同規模の自治体に匹敵する数が集まっていることになる。この約6万7000人規模のタイ在留邦人社会だが、退職後の移住組を除けば、大使館などに勤める政府機関職員、民間企業の駐在員、起業家、現地採用組、学生の5つに大別される。

コールセンターのオペレーターを含む「現地採用」とは、日本の本社から海外へ派遣されるのではなく、海外にある現地法人に直接採用される雇用形態のことを指す。

なかでも比較の対象にされやすいのが、駐在員と現地採用者だ。この両者の大きな違いは待遇面である。駐在員の給与は私の取材したところ、年収1000万円前後だ。月給に加え危険手当が支給されるうえ、住居費や車、運転手付きが大半で、福利厚生面は手厚い。

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