彼らはなぜタイに「墜ちた」と揶揄されるのか

バンコクコールセンターで働く日本人の実態

「ここでDJをできるのは最高ですね。10年前から遊んでいたこの場所で、自分が今まで好きでやっていたことがおカネになっていることです。カオサンには世界中から旅行者が集まるじゃないですか? それで自分のことを知ってもらい、彼らが世界に伝えてくれるかもしれない。だからものすごく面白いです」

吉川はここで週3回、DJとして午後8時~午前1時ごろまで音楽を流し続け、日中はコールセンターでオペレーターという二足のわらじを履き、バンコクでの生活を満喫していた。

私が吉川と初めて会ったのは、この10カ月ほど前の2015年春である。彼が住むアパートを訪れた時のことだ。そこはバンコク中心部から少し離れた、MRT(地下鉄)のホイクアン駅からタクシーで10分ほど走った白いアパートだった。

部屋は28平方メートルのワンルームで、一人暮らしには十分な広さだ。家賃は月4800バーツ(約1万6500円)。吉川はバンコクでDJとして独立することを目標にしており、部屋に入ってまず目に飛び込んできたのは、それを象徴するかのような音響機器だった。

「これがわが家自慢のサウンドシステムです。ここに普段使っているDJのセットがあるんですよ。日本で買ったのがこっちのターンテーブルです」

吉川が布を持ち上げると、真っ赤なターンテーブル2つが現れた。近くには2本の縦長スピーカー、その間に黒いDJ機器が誇らしげに置かれている。あとはソファ、ベッド、テレビがあるだけで、ごく普通の男の部屋といった感じだ。

食生活は

ところが冷蔵庫は見当たらない。普段の食生活はどうしているのかと吉川に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「週に3日は夜に卵かけご飯を食べています」

さらに満足げにこう続けた。

「卵かけごはん食べると本当に幸せなんですよ!」

炊飯器で炊いた日本米に、日本食材店で買う6個入り58バーツ(約200円)の卵をぶっかけ、タイ産の醬油を混ぜて食べるのが彼の夕食だった。

(※本記事では直近の為替レートで計算したが、本書では1バーツ=約3円で統一している)

「日本産でなくても、特に味に不満はないのでタイの醬油でかまいません。味がよかったら安いほうがいいじゃないですか? それに醬油の味に敏感になるほどのグルメでもないので」

そう言って吉川は醬油が入った小瓶を持ち上げた。

「卵かけご飯ばかりじゃ飽きるので、その辺の屋台で鳥の唐揚げかソーセージを買って食べる日もあります。冷蔵庫がないので飲み物も飲みたい時にコンビニで買って飲んでいますね。野菜は嫌いなのでほとんど食べません」

吉川の1日の出費をまとめると次のようになる。

朝食は食べない。朝にコンビニで買う水が7バーツ(約24円)、出勤時の地下鉄運賃が21バーツ(約72円)、昼食はコールセンター近くの屋台で35バーツ(約120円)。帰宅時はよほどの激しい雨が降らない限りは職場からアパートまで1時間かけて歩く。夕食は卵かけご飯か屋台で調達するので、毎日の出費はだいたい150バーツ(約515円)以内に収まる。

物価の差はあれ、日本で1日500円、月々にしたら1万5000円程度で生活するのは至難の業だ。

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