彼らはなぜタイに「墜ちた」と揶揄されるのか

バンコクコールセンターで働く日本人の実態

「やっぱり日本人だから日本食も食べたいと思います。そういう時に食べに行く余裕がないっていうのはちょっとつらいところはありますね。ただ、今食べているものとか日々の生活に関しては特別苦しいとは思わないです」

コールセンターの月給が3万数千バーツ(3万バーツで約10万3000円)という事情があるにしても、節約する主な理由は、外での飲み代が必要なためである。プロのDJを目指す吉川は毎週末、クラブに通っている。そのために日々、出費をできるだけ抑えて生活しているのだ。

この日、吉川の銀行口座の残高は2600バーツ(約9000円)。ATMからこまめに引き出すため、残高はつねに頭に入っている。1回の引き出し額は400バーツ(約1375円)と決めて、それで2日間を過ごせば、手元に少し余るという勘定だ。

「だから自分としては400バーツを1週間で2回おろすのが習慣なんですよ。で週末に遊びに行く時は900バーツ(約3100円)をおろす。これは少し多めにおろしていますよね。何でこまめにおろすかっていうと、おカネがあったら使ってしまうからなんです。だったらないことにしておけばいい。今ある分しかおカネは使いませんってことにしてやり繰りしています。水谷さん、この日本人はいったい何なんだと思っているでしょ?」

日常生活の細部を根掘り葉掘り質問したため、そう受け取られてしまったようだ。ただ、吉川は嫌がっている様子は微塵もなく、自分に興味を抱かれていることを、素直に喜んでいるように見えた。

冷ややかな視線

吉川のような30代半ばから40代にかけての、もう若くはない大人が今、バンコクのコールセンターに集まっている。

それはタイ国内に日本の大手コールセンター企業が進出した2004年以降のことだ。以前は中国の大連などに進出していたが、タイについては2002年、工業省管轄のタイ投資委員会(BOI)がコールセンターを投資奨励業種に認定し、コールセンター大手2社がBOIから事業認可を受けたのが始まりだ。

タイに進出している日系企業は2015年6月現在、約4500社(ジェトロ・バンコク事務所調べ)に上り、その数は年々増え続けて、東南アジア域内では最も多い。業種別の内訳は製造業とサービス業でほぼ二分される。これに伴って現地採用者も増えているとみられるが、その中でもとりわけ、コールセンターでオペレーターとして働く日本人に対するバンコク在留邦人社会からの視線は、製造業や商社、人材紹介会社、IT企業、不動産会社などで働く現地採用組に比べるとなぜか冷淡だった。

ある種の蔑みに近いと言ったほうがいいかもしれない。 オペレーターたちも、そんな冷たい空気を感じ取っているように思えた。

バンコクにある大手人材紹介会社の担当者は、コールセンターについてこう説明する。

「言い方がよくないかもしれませんが、タイの日系企業からするとコールセンターで働く人は、“コールセンターでしか働けなかった”っていう印象があります。日本で正社員を経験した人が少なく、ビジネスマナーがなっていないといいますか……。軽い気持ちでタイに来た方が多いのではないでしょうか」

コールセンター内を案内してくれたセンター長も自身の職場が、いかに見下されているのかをありのままに語った。

「バンコク邦人社会の中でコールセンターのイメージってどこか避けて見られるじゃないですか? 何もできない奴らが集まっているって。2ちゃんねるを見ていてもそう思います」

次ページ「バンコクコールセンターに堕ちた人たち……」
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