彼らはなぜタイに「墜ちた」と揶揄されるのか バンコクコールセンターで働く日本人の実態
対して現地採用者は駐在員の給与の5分の1~2分の1程度(勤続年数などにより異なる)で、年金などの社会保障もそれほど充実しているわけではない。それゆえ両者は何かと比較の対象になりやすい。
駐在員側が意識せずとも、現地採用者が駐在員に対してやっかみに近い感情を抱いているのは否定できない事実だ。その待遇格差を反映するかのように、現地採用者が自分たちのことを自虐的に「ゲンサイ」、駐在員の妻たちのことを「チューツマ」と呼ぶなど、駐在員と現地採用者の間には埋め難い溝がある。
ただし、渡航先の国に長年滞在したい、あるいは一生住みたい、と思うのであれば、赴任期間が決まっている駐在員でなく現地採用者である必要がある。しばらく現地採用者として働いた後、起業して活躍しているケースは枚挙にいとまがないから、現地採用者のほうが夢をつかむチャンスはあるかもしれない。
現地採用者の中でも存在するヒエラルキー
さらには現地採用者の中でもヒエラルキーが存在する。
商社や人材紹介会社、不動産や製造業、フリーペーパーなどで働く場合、研修期間は別にして給与は原則、タイの労働省が定める日本人の最低賃金、月額5万バーツ(約17万2000円)からのスタートになる。ところがコールセンターの場合、3万バーツ(約10万3000円)からと最低賃金を下回っている。
理由は、コールセンターという業種がBOIから事業認可を受けて投資奨励恩典が付与されているためで、この場合は最低賃金が適用されない。故に賃金が最低ラインより低めに設定され、企業にとってはこれが人件費の削減につながっているのだ。たとえば、日本の通販業者が電話応対業務をバンコクのコールセンターに外注することで、経費を従来の3分の2程度に削減できるという。
この待遇格差に関する情報は在留邦人社会では周知の事実となっているため、「コールセンターで働く」=「月給3万バーツ(約10万3000円)」と自動的に格付けされがちだ。とはいえ、3万バーツという月収をどう判断するかは微妙なところだろう。タイの物価が日本の3分の1~5分の1程度であることを考慮すれば、日本で月収15万~20万円ほどを受け取っている金銭感覚と変わらないような気がする。
オペレーターたちにバンコクでの家賃を尋ねてみると「月5000バーツ(約1万7000円)ぐらい」という回答が圧倒的に多い。つまり残り2万5000バーツ(約8万6000円)で毎月の生活をやりくりすることになる。バンコクの至る所にある屋台でカオパット(タイ風焼き飯)やバーミーナム(タイ風ラーメン)を食べても一食35~50バーツ(約120~約170円)で、しかも日本人好みの味付けだ。
ただし、毎日のように日本料理店で定食やラーメンなど(日本で食べる値段とそれほど変わらない)を食べるほどの余裕はない。週末に歓楽街へ飲みに行ったりしたいのであれば、どこかで生活費を削らなければならなくなる。平日の行動範囲にある程度の制限が出てくるのはやむを得ない。
だが裏を返せば、遊興費さえ抑えれば、コールセンターの給与でも十分に暮らせるのがタイの物価水準と言える。ちなみにタイにおける最低賃金は1日当たり、全国一律で300バーツ(約1030円、2017年1月より69都県で5~10バーツの引き上げが実施された)で、タイ人の平均月収は幹部職や特殊な技術を伴う職種でない限り、1万数千~2万数千バーツといったところが相場だ。
しかもバンコクは年間平均気温が29度。高温多湿のために蒸し暑く感じることも多いが、寒い時期がないために衣料品に割く費用も日本に比べて圧倒的にかからない。前出の所長が言うとおり、コールセンターは特別服装に気を遣わなくても許される職場のため、世間体を気にせずTシャツに短パンだけで過ごすことも可能だ。
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