東京五輪は、アスリートたちを救うか? “大学一”でも就活に苦戦する、選手たちの近未来

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男子やり投げのディーンは左脇腹を痛めた影響でモスクワ世界選手権代表を逃したが、昨年は日本選手権でベルリン世界選手権銅メダリストの村上幸史(スズキ浜松AC)を破って優勝すると、ロンドン五輪では決勝に進出して10位に入っている。長距離以外の選手では、ワールドクラスの実力がないと、大学卒業後の所属先はなかなか決まらないのだ。

教員アスリートが出現する背景

「実業団選手」と言っても、その“中身”は企業によって異なる。社業を免除され、トレーニングだけに集中できる企業もあれば、午前中に業務をこなして、午後から練習という会社もある。それでも、十分なトレーニング時間を確保できるように配慮をしている企業がほとんどだ。“公務員ランナー”川内優輝(埼玉県庁)のようにフルタイム勤務で、というやり方もできないわけではないが、競技場での技術練習が必要な種目では、かなり難しい。

そのため、学生時代に日本トップクラスの成績を残しても、実業団選手として採用されなければ、大学院に進学したり、アルバイトをしながら競技を続ける道を選ぶ選手も少なくない。

ちょっと前の話になるが、男子800mの日本記録保持者の横田真人(富士通)も慶応大卒業後の就活に苦戦していた。横田は大学4年間で日本選手権を3度制して、大学2年時には大阪世界選手権にも出場したが、それでもなかなか就職先が決まらなかったのだ。当時、横田はこんなことを話していた。

「箱根駅伝は人気が高く、長距離選手は社会人になっても実業団駅伝がある。うらやましいとは思いますけど、800mはマイナー競技なので、日本一になったとしても世間の評価が高くないことには納得しています」

同じ陸上競技でも、種目によって、企業の“評価”が違うのだ。長距離選手でいえば、箱根駅伝のスター選手などは、駅伝チームを保持する大手企業のなかで争奪戦となり、その報酬もハネ上がる。契約金を含めれば、入社初年度に(主に契約社員だが)、数千万円のギャラを受け取る選手もいるほどだ。

しかし、長距離以外の選手はそんなに甘くない。今年のモスクワ世界選手権では、男子400mハードルの笛木靖宏、男子4×400mリレーの中野弘幸、女子100mハードルの紫村仁美の3人が「教員アスリート」として出場して話題を集めたが、彼らが教員の道に進んだ理由も、就職先が見つからなかったという側面が大きかった。

やってきた、プラチナ世代

現在の大学4年生は、日本陸上界にとって“特別”な学年だ。大きな理由は2つある。そのひとつが、現在21~22歳の彼らが、東京五輪を迎える7年後には28~29歳と年齢的にピークを迎えることだ。もうひとつは、彼らの世代が、過去の日本陸上界に類を見ないくらいに“強い”からだ。

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