その後、ありがたいことに、外資系金融業のゴールドマン・サックス証券から内定をいただきました。そのとき、すごくほっとしました。でもそれは「働く場所が決まった」喜びよりも、「人に話して恥ずかしくないような、立派な会社に内定をもらえた」ことへの安堵のほうが大きかったのが正直な気持ちです。
実を言えば、そのときもまだ「本当はマンガ家になりたい」という思いがくすぶっていました。
なぜ、ピアプレッシャーから抜け出せたのか?
ピアプレッシャーにとらわれて、ココロオドル仕事から遠ざかっていた私が、思いきって会社を辞めることができたのは、大学教授である母の働く姿を思い出したことがきっかけでした。
母は仕事が大好きで、家にまで仕事を持ち込んで、食事を忘れるほど夢中になって研究に没頭していました。
母は、「大学教授である自分」よりも、「研究をしていること、そのもの」が好きだったのだと思います。
そんな母の姿を思い出したとたん、母のような働き方をしたいとずっと願っていたはずなのに、現実の自分はまったく違う働き方をしていることに愕然としました。
「人の目のほうが、自分の人生よりも大事なの?」
そう自分に問いかけたとき、目が覚めました。
フェイスブックに入社するきっかけとなった「偶然の出来事」
そして、会社をやめて8カ月間、集中して描いてみてわかったのは、「私はマンガ家にはなれない」という事実でした。新人賞に応募して、そこそこのところまではいくものの、デビューはできない。
「会社を辞めてまで挑戦したけど、私にはマンガの才能はなかった」不思議と冷静な気持ちで、賞を取れなかった原稿の山を見ているうちに、ある“アイデア”がひらめきました。
「世の中には、賞が取れなくて、人に読まれることがないけれど、すごく面白いマンガがいっぱいあるんじゃない? それを集めて見られるサイトがあったら、面白いかも!」
いつの間にかこのアイデアにとりつかれて、マンガそっちのけで、「マガジン」というサイトを作ることに没頭していきました。
そんなとき、IT関係者が多く集まるIVS(Infinity Ventures Summit)という大規模なイベントが、札幌で開催されることになりました。IT業界で活躍する経営者が大勢集うIVSでは、新サービスを多くの人に広めるためのプレゼンテーションもできるのです。
当時の私は、IVSの存在などまったく知りませんでしたが、「マガジン」をどうにかして広めたくて、「インターネット」「プレゼン」という言葉で検索してみたら、たまたま検索結果に出てきたのです。「よし、マガジンのプレゼンをして、ユーザーを増やそう!」と、応募フォームに書き込んで、すぐさま送信ボタンを押しました。
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