ミスター社会人に学ぶ、40歳超でも輝く術 後悔をモチベーションに変えるパワー

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社会人の頂点を争う都市対抗には、補強選手という独特の制度がある。各地方の代表が日本一を争うという大会趣旨のため、開催期間中、予選で敗れたチームから数名をレンタルすることができるのだ。

99年、日産自動車の補強選手に選ばれた西郷は都市対抗を控えた夏、日本代表の合宿に参加した。そのとき、予期せぬアクシデントに見舞われる。ベンチ前でバント練習用のピッチングマシーンが稼働していたことに気づかず、ヘルメットをかぶらないままグラウンドに飛び出すと、無防備な頭部に硬球が直撃した。頭蓋骨骨折、脳挫傷の重傷――。運良く失明は免れたものの、数カ月の入院生活を余儀なくされ、「もう野球をできないのでは」と悲嘆にくれた。

「日産がせっかく補強してくれたのに、結局、選手がひとり足りなくなって。自分の軽卒な行動で補強先に迷惑をかけ、自分自身もすごく悔しい思いをしました。そんな選手がいまでも野球をしているなんて、奇跡ですよ」

全部、フルスイング

病床で数年間を省みた西郷は、慢心していた自分に気づいた。社会人野球で確固たる地位を確立した一方、プロへの道をあきらめ、中途半端な気持ちでバットを振っていた。「これではダメだ」と思い直した。

一念発起した西郷が復帰すると、4年ぶりの再会が待っていた。99年シーズンオフ、垣野多鶴(現NTT東日本監督)が三菱自動車川崎の監督としてやって来たのだ。西郷が初めて日本代表に選ばれたとき、打撃コーチを務めていたのが垣野だった。

「もう、流し打ちは禁止だ。全部、フルスイングしていけ!」

逆方向へのバッティングでヒットを稼いできた西郷に、垣野は打撃改造を命じた。西郷は、「垣野監督の『今までのようなバッティングじゃダメだぞ。もっと上を目指せ』というメッセージ」と受け止め、バットを思い切り振り込んでいく。

二人三脚でバッティングを作り直す過程で、最も衝撃を受けたのは「ポイントは横一線」というアドバイスだった。少年野球の頃から「ポイントは斜め横」、つまりインコースは体の前、アウトコースは引きつけて打つよう教えられてきたが、垣野の指導は異なっていた。

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