メイ政権の方針でもある「ハードな離脱」の場合は、FTAの正式な協議が、英国がEUを離脱し第3国になってからとなるため、離脱からFTA発効までの期間の環境の激変を回避するためには「移行協定」が必要となる。「ハードな離脱」のシナリオは、移行期間の有無によって2つに分けることができ、BOEが重視する家計や企業の行動はかなり異なったものとなる。
ハードな離脱の2つのシナリオとソフトな離脱、離脱撤回という4つのシナリオのうち、実現可能性が最も高いと見られるのは、2019年3月末の離脱後、移行期間に入り、新たなFTAに基づく関係に移行する「ハードだが円滑な離脱」だ。メイ首相は、9月にイタリアのフィレンツェで行った演説で2年間の移行期間を求めており、EU側も英国が条件を満たせば、これに応じる構えであるからだ。
円滑な離脱という前提が崩れるリスクも
しかし、英国とEUの離脱協議は難航しており、「協定なしのハードで無秩序な離脱」の可能性も意識せざるを得なくなっている。10月20日のEU首脳会議では、離脱協議が十分に進展しないとして、移行期間やFTAの準備協議への前進を見送った。対応を迫られる企業にとっては、移行期間は、早い段階で合意が成立しなければ、意義が失われてしまう。次の段階に進めるかどうかは、12月14~15日に予定される首脳会議での離脱協議が最初の山場となるだろう。
次回の協議は11月9~10日に行われる。この段階で、英国政府が離脱に伴う清算金について、明確な方針を示すことができれば、12月首脳会議で交渉の前進に道が拓かれる。だが、EUとの溝が埋まらない可能性も排除できない。6月総選挙での敗北で、メイ首相の求心力は大きく低下しており、EUへの譲歩を嫌う保守党内の強硬派をコントロールしきれない。清算金として、EUの要求額とされる600億ユーロ(8兆円)もの金額を支払うことになれば、世論の反発も予想される。
経済的なショックがより小さい「ソフトな離脱」への転換や、離脱撤回は、再選挙による政権交代や、政界再編などのプロセスが必要となるため、現時点では可能性が極めて低い。しかし、11月1日には過去のセクハラ問題の責任をとってファロン国防相が辞任、メイ政権は新たな打撃に見舞われた。このまま政権基盤の脆弱化が止まらず、EUとの協議の膠着状態に陥り、政局の混迷が深まることが、想定外の展開への布石となるかもしれない。
EU離脱の行方も、企業や家計の反応についても、かなり幅を持って見る必要がある。始まったばかりのBOEの利上げサイクルは平坦な道のりとはならないだろう。
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