英国中銀、インフレ抑制へ低成長でも利上げ EU離脱協議は難航、政局のリスクも

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賃金の伸びも勢いを欠く。直近(6~8月)の失業率は4.3%と実に42年ぶりという低水準で、BOEが均衡水準とみなす4.5%を切っている。EU離脱を決めたことで、EU圏内、特に近年急増していた中東欧からの移民の流入が細り、流出が増えていることから、労働力の不足すら懸念される状況だ。それでも、賃金の伸びは8月までの3カ月間で前年比2.2%と世界金融危機前の半分程度の伸びに留まる。賃金の伸びを上回るインフレが、最大の需要項目である個人消費の伸びを抑える要因になっている。

BOEは、世界金融危機以降、生産性の伸びが頭打ちとなっており、潜在成長率の伸びは1.5%程度まで低下したと見ている。新たな、より低い「スピードリミット(制限速度)」に達しているとの認識が低成長下での利上げの背景にある。

「ハト派的」トーンを受けてポンド安が進行

利上げ発表後の外国為替市場では1ポンド=1.32ドル台から1.30ドル台へとポンド安が進んだ。今回の政策決定に関する声明文や議事要旨、政策決定のたたき台となる四半期に1度の「インフレ報告」、総裁会見などのトーンなどが「ハト派的」と受け止められたからだ。

声明文には「今後の利上げは緩やかなペースでの限定的な幅とすることで全員が一致した」と明記され、前回の「インフレ報告」の分析に基づく「経済が予想通りに推移した場合の引き締め幅は市場の想定よりも大きくなる」との文言は削除した。市場が織り込む2018年から2020年までに0.25%の利上げが2回というごく緩やかなペースの利上げを事実上追認した形だ。

しかし、英国は、2019年3月にEU離脱という歴史的な転換点を控えているだけに、この先の金融政策が、緩やかな利上げという道筋をたどるのかどうか、おそらくカーニー総裁もMPCのメンバーも確信は持てないだろう。

EU離脱について、「インフレ報告」の予測は、「EUとの最終的な貿易関係について起こりうるすべての結果の平均」を前提とし、「家計や企業が、EUとの新たな貿易関係に向けて円滑な調整が進むという期待に基づいて意思決定する」と想定している。

BOEが、具体的にどのような想定を置いているかは明記されていないが、離脱のシナリオは、基本的に、(1)財・サービス・資本・人の移動の自由を原則とする「単一市場」からも、域内関税ゼロ、対外共通関税、共通通商政策の「関税同盟」からも離脱し、新たな自由貿易協定(FTA)に基づく関係に移行する「ハードな離脱」、(2)「単一市場」と「関税同盟」のどちらか、あるいは両方に留まる「ソフトな離脱」、(3)離脱撤回の3つに分けることができる。

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