ネットの高校「N高校」は教育界を変えるか 桜蔭出身者も「求めてたのはこれ!」と叫ぶ
一方で、友達も増えた。N高の生徒は多種多様。同調圧力もない。趣味が同じ遠隔地の仲間とも校内コミュニケーションツールであるSlackを通じてつながる。「学校の教室の中だけで、気の合う仲間を見つけるのは大変だけど、ネットを使えば必ず仲間は見つかります」(田邉さん)
“教室”はネットや校舎だけでなく世界にも広がる。将来を考えるには、様々な出会いや刺激も必要だ。宮下空唯(くう)さんが志望校を神奈川県立の上位校からN高に変更した最大の理由は、「スタンフォードプログラムに絶対行きたかったから」。
これはN高が提携する米スタンフォード大学が毎年夏の2週間、世界の14~17歳の高校生を対象に実施しているプログラム。宮下さんは前出の大野さんとともに英語の面接を突破。慶應義塾湘南藤沢高等部、灘高、早稲田実業学校高等部から来たメンバーと共に、カリフォルニアのキャンパスに足を踏み入れた。宮下さんは言う。
「見るものすべてスケールが大きくて驚きました。授業では仮想の国を作り上げるグループワークが特に面白くて、チリやインド、香港などから来た子たちとどういう経済や政治、軍事の仕組みや文化がいいか、語り合った。2回は無理だけど、来年も行きたいくらい楽しかった」
「未来の夢につながる学び」を掲げるN高には、チームでモノやサービスを作り上げるプロジェクト型授業もある。1年を通じて取り組み、最終成果はカドカワの川上量生社長、ドワンゴの夏野剛取締役、実業家の堀江貴文氏ら選考委員の前で発表。企業が手がける学校ならでは、優秀なプロジェクトには事業展開の資金1000万円を提供し、起業も支援するのだ。これに惹かれてN高を志望する生徒もいる。
その中間プレゼンで20チーム中、トップに立ったのが大平ひかりさんと延原琴乃さんのチーム。開発しているのは、発達障害で親や教師とのコミュニケーションに苦しむ子どものための連絡帳だという。
校歌は代数Nの方程式
大平さん自身、発達障害の特性で、わかっていても字を書けなかったり書くスピードが極端に遅くなってしまう。延原さんは極端な人見知りで話すのが苦手。「困った状況を周囲に言えなかった苦しみ」が発想の原点となった。
市販の連絡帳には罫線があるだけで、翌日の時間割や持ち物などを書き込む形式が多いが、2人が考える連絡帳は、字を極力書かずに済むようあらかじめ科目名が印刷してあり、◯をつけるだけ。夜、家でゆっくり自分が困っていることや伝えたいことを日記のように書くページも作った。大平さんは「発達障害の子って得意なことと不得意なことがすごく極端。私もそうです。でもN高では得意なことを伸ばせるし、勉強もパソコンとネットでできるので、字が書けないハンディがまったく気にならなくなりました」と話す。
人前でうまく話せなかったはずの延原さんも、プロジェクトのプレゼンでは堂々と発表。N高の校歌「代数Nの方程式」の最後はこんな歌詞だ。
「運命は自分で変えられるのさ 代数Nに自由な夢描こう」
(編集部・石臥薫子)
※AERA 2017年11月6日号
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