「武士に二言はない」は嘘つきの始まり? 主張を変えるのは悪ではない

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主観を排して事実を検証すること

東海林社長が当初の自分の主張を変え、明日香の提案を受け入れたのは、欧米流のロジックが身に付いていたからだ。

「過ちて改めざる 是を過ちという」という言葉がある。今から2000年以上前に儒教の祖・孔子が「論語」に残した言葉だ。

過ちは実行してみないとわからない。東海林社長の当初の方針は、もし駒沢商会が適切な対応を怠れば、結果的に成功していたかもしれない。だから、まずは実行すること。実行してみて、過ちがわかったら、すぐに是正することが大切なのだ。

リーダーといえども人間だ。過った方針を出してしまうこともある。大切なのは、その過ちを認めて改めることだ。実行して過ちに気づき、改めるのであれば、実行しないよりははるかによい。だから、「言ったことの一貫性」ではなく、「ロジックの一貫性」を重視すべきなのだ。自分の主張に反する事実が出たら、それを素直に受け入れて、状況に合わせて臨機応変に主張を変えることが必要なのである。

「武士に二言はない」が美徳とされてきた日本では、事実を隠してでも、言ったことを続ける傾向がある。それをよかれと持ち上げる風潮もあった。

たとえば、万年不振だった事業部が、全社方針に逆らいながら細々と開発を続けてきたプロジェクトが、やがて日の目を見て大成功する……という物語は美談だ。だが、グローバル社会では、意図的に事実を隠して、都合のよい情報に変えて報告するのは「ウソつき」でしかない。会社に対する背任行為であり、信頼を失ってしまうのだ。

また、現実には、隠れて成功するケースはごくまれだ。不振が隠蔽されたまま継続しているケースが大半なのだ。語り継がれるひとつの美談の背後には、数十、数百の失敗が隠されていることを忘れてはならない。もし将来の成長の芽としてプロジェクトを継続すべきだと思うのであれば、隠さずに事実と論拠を示して主張し、プロジェクトの継続を図るべきなのである。

福島第一原発事故でも、言ったことの一貫性にこだわったことが問題の根っこにある。原発関係者は、「原発事故は決して起こしてはいけない」→「だから、完璧に設計している」→「だから、原発事故は起こらない」と主張していた。無誤謬性の神話を信じ、少々都合の悪い事実が出ても、いいように解釈して、自分たちの主張を変えようとはしなかった。

守るべきなのは客観的で冷静なロジックだったのに、自分たちの主張に合わせて、勝手にロジックを変えていた。それが積み重なって、やがて神話となり、深刻な原発事故が発生した途端、その神話が一気に崩壊したのだ。

グローバルコミュニケーションで必要なのは、主観を排除して事実を検証し、誤ったらすぐに改めることだ。過去のしがらみや感情的なしこりで、事実を隠したり、勝手にロジックを変えたりすると、信用を失う。前提条件(事実と論拠)が崩れたら、主張を変えてもかまわないのである。

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