商社マン&芥川賞作家、二足のわらじの履き方 純文学者・磯﨑憲一郎氏の好き嫌い(上)

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楠木:大学時代はどんな生活でしたか。

磯﨑:大学生のときは、もうバブルの真っただ中でしたが、なぜか、そうした雰囲気には背を向けて、体育会のボート部に入りました。エイトやフォアなどのレガッタ競技ですね。ロックは聞いていましたが、生活としてはボートにどっぷりな感じです。ですから、音楽よりさらに小説から遠のいたという感じですね。

磯﨑憲一郎(いそざき・けんいちろう)
小説家 1965年千葉県生まれ。早稲田大学商学部卒業。総合商社勤務の傍らで小説を執筆。2007年『肝心の子供』で第44回文藝賞を受賞しデビュー。2009年『終の住処』で第141回芥川賞、2011年『赤の他人の瓜二つ』で第21回東急文化村ドゥマゴ文学賞を受賞。近著に『往古来今』がある。

楠木:ここまでは純文学色がぜんぜんないですね。で、ビジネスマンの王道ともいうべき総合商社に就職されるわけですが、それはどんな理由からですか。

磯﨑:私が就職するときの人気ナンバーワンの企業というのは、民営化されてまもない、NTTだったんです。就職活動解禁日に、そのNTTに行列する何百人もの大学生の様子がテレビのニュース番組で映し出され、それを、埼玉県の戸田にあるボート部の合宿所で見ていました。

自分の入社する総合商社もテレビに出ていたのですが、そこは、そんな行列にはなっていなかった。自分の適性を考えると、ものづくりの理工系でもないし、金融にもあまり興味がないし、しいて言えば、人相手の仕事が向いているかなと思っていました。それで、この会社に行ってみようと思って、そのまま合宿所から選考面接に行ったんです。それがきっかけです。

楠木:ま、成り行きというか、わりとカジュアルな理由ですね。サラリーマンの中では本好きという程度だったという磯﨑さんですが、文学にどっぷりという時期はなかったのですか。

磯﨑:私は42歳で小説家デビューをしたのですが、読者としては、世間で話題になっている小説があるから、読んでみようかという程度の読者でした。

楠木:この辺がとても不思議なのですが、だとしたら、小説を書かれたきっかけは何だったのですか。

磯﨑:もともとファンだった作家の保坂和志さんを存じ上げておりまして、保坂さんから、「お前は変わったやつだから、小説でも書いてみたらどうだ」と薦められたことがきっかけです。

楠木:それまでは、書いたことはなかったんですよね。

磯﨑:そうなんです。

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