ネットは「テレビのあり方」を変え始めている 「放送枠を持つ者」だけでは生き残れない

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きっかけは映像を楽しむ手段の変化である。ネット配信業者による日本アニメの爆買いが一時的に業界を盛り上げつつあったものの、事業環境の変化に翻弄されている。

今さら言うまでもないが、グローバルではネット配信による映像視聴時間が延びており、米国におけるNetflix、Amazon Videoの例を挙げるまでもなく、ネットを通じて映像配信を行う事業者がビジネス規模を拡大し、その規模の拡大に伴って品ぞろえを増やすべくコンテンツを調達している。

ネット配信業者関連のバイヤーも殺到

筆者が4月に取材したカンヌ開催の映像見本市「MIPTV 2017」では、テレビ番組枠向けのバイヤー3000人に対してネット配信業者関連のバイヤーは1000人。グローバルでのテレビ産業の大きさを考えれば当然とはいうものの、ネット配信需要が増加傾向を続けていることを考えれば、今後、テレビ放送枠向けと同等以上の市場に成長することがうかがえる数字でもある。

“映像コンテンツを消費者に届ける”という視点では同じサービスという見方もできるテレビ放送とネット配信だが、そのサービス、事業の枠組みは大きく異なる。

同じ放送時間枠に(チャンネル当たり)1つの番組しか流せない。だからこそ限られた枠内にどのようなコンテンツを用意するか、番組編成が重要になってくる。かつて日本のアニメが売れた理由は、ゴールデンタイム放送向けに制作された子ども向けアニメの質が高く、内容面でも文化的、人種的に中立なコンテンツが多かったため、子ども向け番組として放送枠に当てやすかったからだ。

一方で2006年ぐらいまで伸びていたアニメ輸出が縮小を始めたのは、日本で子ども番組需要が減り、主に大人を対象にした深夜帯アニメの増加の影響があるといわれている。番組バイヤーのニーズと、日本のアニメファンのポートフォリオ(構成比率)が合っていないのだ。

しかしネット配信では状況が異なる。利用者が自分の意思で視聴するコンテンツを選ぶうえ、視聴する時間帯に制約のないネット配信では、そもそも“編成”という考え方がない。編成するのではなく、ラインナップをどうそろえるかという“品ぞろえ”が基本だ。かつて日本アニメを見て育った世代に向けて、品ぞろえの1つとして質の高い日本アニメを買い付ける動きが出てくるのは当然といえるだろう。

冒頭で述べたアニメの爆買いも、その主役は中国で雨後のたけのこのように勃興しはじめたネット配信業者が、こぞってコンテンツを買いあさったからだった。中国企業の日本アニメ買い付け額が2015年に4.4倍になったことで急増し、昨年アニメ市場全体が2兆円へと迫るバブルを生み出す主因となった。

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