ユーロドル相場は一体これからどうなるのか みずほ銀行の唐鎌大輔氏に聞く
――ユーロドルは9月前半に1.20ドルまで上昇し、足元では少し下がりました。今後のユーロ相場の見通しは。
まず、私は基本的には、ユーロは強い通貨だと考えている。欧州全体としてみると世界最大の経常黒字を誇っており、加盟国によっては実質金利も高い。その意味では円と似たファンダメンタルズを備えており、通貨分析上、売られ続ける理由に乏しい。ゆえに、本来は盤石な相場を展開するはずだ。ただ、悩ましいことに政治的なノイズがたびたび入り込み、ファンダメンタルズを度外視して売られることは頻繁にある。
その意味で政治的なノイズから解放された今年上半期のユーロが上昇したのは目論見どおりだが、6月以降の上昇は行き過ぎだと見ていた。そして案の定、少し下がってきた。多くの人はユーロの上昇はドラギ ECB総裁が6月に行ったシントラ発言前後から始まったと思っている。ポルトガルのシントラでの講演で「デフレ圧力はリフレ圧力に置き換わった」と述べたものだ。そこから爆発的にユーロが買われ始めたのは事実だが、実は、それより前の4月から上がってきていた。
「政治の安定化」を受けてのユーロ買いが一服
これはつまり、フランス大統領選でマクロンが勝ったときからだ。9月のドイツの連邦議会選挙ではメルケルが勝つことは当然だと見られていたので、「独仏の政治安定」がEU(欧州連合)に安定をもたらすとの思惑が生じた。両名を指してメルクロンやダブルMといった造語が飛び交ったのは記憶に新しい。それに比べて英・米の政情が不安定であったため、このコントラストがユーロ買いのきっかけになった。
だが、その後マクロン大統領の支持率は急落し、ドイツの連邦議会選挙でもメルケル首相の勢いは失われた。イタリアの総選挙が控えているうえ、スペインではカタルーニャ州の独立騒動まで起きた。厄介なことに、これをうまく鎮圧できなければ触発されそうな分離・独立の機運はEU域内のそこかしこにある。スペイン国内のバスク地方、イタリアの北部同盟、ベルギーのフランドル、英国のスコットランドなどだ。これらへの延焼は絶対に避けなければならない。
なお、欧州委員会はカタルーニャ問題について我関せずというのが基本スタンスだが、元をただせばこれはEUにも責任がある。欧州債務危機後、欧州委員会が重債務国に緊縮財政を強いており、これが各国中央政府を経由して地方政府の緊縮につながったという経緯がある。EU発、中央政府経由、地方政府行きという緊縮路線が各地方を直撃した。スペインの場合、最も豊かなカタルーニャからの徴収は膨らみやすく、また、歴史的経緯もあって被差別意識が強まりやすいという特質にも留意したい。いずれにせよ、現状を踏まえれば、「政治的に安定しているからユーロ買い」という理由付けは相当苦しくなっている。
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