原発事故から2年半。「避難」に奪われた命

東京オリンピックと終わらぬ悲劇

もう、県には頼れない

すでに介護用品は底を尽き始め、十分な水も栄養がとれる食料もなくなっていた。体調を崩す利用者が増え、容態が急変し入院する人も出てきていた。不眠不休で働く職員も疲労困憊し、熱を出す者もいた。

「大変なのはサンライトおおくまだけではないんです。これから各施設の状況を把握して対応を考えますので」

福島県災害対策本部に連絡を入れた池田施設長は、県職員の言葉に唖然とした。今の今が大変で、命を落とすかもしれない人がいるという時に、支援はすべての高齢者施設の状況を把握してから考えるのだという。反射的に、もう県には頼れない、自力でこの状況をどうにかするほかないのだと悟った。

震える手で電話を切った池田施設長は、生活相談員と手分けして福島県内の特別養護老人ホームに手当たり次第に連絡をとり始めた。

他の施設を助ける余裕があるか?

行政に頼れない中、避難している施設に救いの手を差し伸べたのは、同じ福島県、会津地方の老人福祉施設だった。

会津みどりホーム事務長、遠藤修一さん(会津若松市、会津みどりホームにて。2013年8月28日著者撮影)

サンライトおおくまから連絡を受けた福島県西部の会津若松市内にある特別養護老人ホーム「会津みどりホーム」では、職員が救援物資を載せ、デンソー工場に向かって車を走らせていた。車中には、男性職員3人が乗っており、事務長の遠藤修一さん(当時49歳)もその1人だった。

遠藤事務長は複雑な思いを抱えていた。会津地方でもいつ物資が止まってもおかしくない状況だったからだ。

オムツなどの介護用品を届けるメーカーも撤退するという。今日は大丈夫でも、明日どうなるかは見通しが立っていない。救援物資を届けるという話を受け、口では「やりましょう」と賛同していたものの、自分の施設でもガソリンや介護物資が不足するかもしれないというのに、他の施設を助ける余裕があるのかと思うと不安だった。それでも、着の身着のまま避難して、工場で過ごしている利用者や同業者がいると思うと、人として動かねばと思ったのだった。

山の中にある新設されたばかりのデンソー工場に着いた。余震を恐れてなのか、気が落ち着かないのか、雪が降っているというのに工場の外には何人もの人がいた。工場は学校の体育館程度の広さで、天井は高い。石油ストーブは数台あったが、がらんとした工場では暖房は効かない。風はあたらないものの気温は外と変わらず、足底からの寒さが身体を刺す。コンクリートの床の上に段ボールやブルーシート、毛布を敷いて土足のまま多くの人たちが避難生活を送っていた。身体をくっつけていないと暖がとれず身がもたない様子で、ところどころに身を寄せ合う人の固まりができていた。

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