保毛尾田ネタ炎上、鎮火しても残る「違和感」

賛否両論で見えてきた「問題の現在位置」

ほかの事例で、たとえば2014年に筑波大学の学園祭で開催予定だった「芸バー」という企画に対し、抗議が集まり中止になったということがある。公共の放送であるテレビ番組と、学生の学園祭を比較するものではないかもしれないが、例として挙げてみる。

この企画では、女装した学生たちが露骨な下ネタなどで同性愛やトランスジェンダーを揶揄するもので、SNSを中心に批判が噴出。その後炎上し、中止に至った。しかし、その際、筑波大学にあったLGBTの学生サークルは騒動に巻き込まれ、芸バー擁護側からは「中止にさせた犯人だ」と責められ、反対側からも「いったい何をやっているんだ」と板挟み状態になってしまったという。大学側が対話の機会をつくることもなく、企画はただ中止になって終わってしまった。(SYNODOS記事:学園祭の「ホモネタ」企画を考える――「芸バー」炎上、何が起こっていたのか

この芸バーの件も、今回の保毛尾田保毛男の件も、中止や謝罪して終わりというだけではまた同じ問題を繰り返す、もしくは、「腫れ物扱い」といった別の問題を引き起こす可能性がある。こうした問題の後、必要となってくるのは「対話をすること」、そして「よりよい表現物を増やす(もしくはそれができるように議論し、働きかけ続けること)」ではないか。

丁寧な対話と、よりよい表現を

多くの人は積極的に差別をしたいわけでなく、ただ「知らなかった」だけということはよくある。特にテレビは、不特定多数の人に情報を届ける影響力の強いメディアだからこそ、何か起きたときに問題がクローズアップされやすい。それだけに視聴者からの怒りや批判も集まりやすく、問題が起きれば即、撤回して終わり、ということになりがちだ。しかし、なぜその問題が起きてしまったのか、どこがダメだったのか。一過性の炎上事件に終わらせず、分析と対話を続けたい、続けてほしいと願う。

もう1つの「よりよい表現物を増やすこと」というのは、メディアの表現を通して、LGBTをはじめ、さまざまなセクシュアリティの人が世の中にいることを伝えていくことだ。それによって、世の中の人が持っている同性愛などに対する偏見や思い込みがなくなっていって、差別的な表現が次第に淘汰されていくというイメージだ。

実際に、昨今のドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」や「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」などには、ゲイのキャラクターが自然と出てきたり、日本ではまだまだ少ないが、海外の映画やドラマでも、登場するキャラクターの1人がレズビアンやトランスジェンダーだったりということが増えてきている。そこで描かれる人物は、一人ひとり多様な個性の持ち主として、1人の人として描かれている。

日本のメディアでも、こういった登場人物がさらに当たり前に出てくるようになれば、しだいにだが、偏見は減っていくのではと思う。

今回の保毛尾田保毛男の件を通して、改めてさまざまな意見を見ることができた。LGBTを取り巻く社会の流れとして見ると、1つのターニングポイントになったのかもしれないが、議論はまだ始まったばかりともいえる。今回の件が「フジテレビが謝罪してよかった」で終わり、風化していくのではなく、丁寧な対話や、よりよい表現が増える1つのステップになることを願う。

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