保毛尾田ネタ炎上、鎮火しても残る「違和感」

賛否両論で見えてきた「問題の現在位置」

サバイブできた背景には、もちろんその人の努力や、物事をうまくしのぐ力があったのかもしれないし、たまたま環境がよかったのかもしれない。しかし、それは「自分は傷つかなかった。だからほかの人も声を上げるのをやめろ」と言う理由にはならない。

笑いにできない人もいるときに、環境によってその人の運命が決まってしまったり、その人の心の持ちようだとか、自己責任だと片づけられてしまうのはなかなかにしんどい。

今回の騒動には一定の効果があったが…

これまでもメディアによる差別的な表現に対して反対する声は上がっていたと思うが、なかなかそれはメディア側には届いていなかったように感じてきた。しかし、今回はLGBTもそうではない人も、さまざまな人が声を上げて、届いたという実感があった。

本来は、放送する前に制作関係者の中で誰かが気づいて止めてくれていたら、そうする仕組みがあったら、と思うが、とはいえ、今回こうして広く議論になり、最終的にフジテレビの社長が謝罪するに至ったことには一定の成果があったのではないか。

ここ数年で、LGBTという言葉が認知されるようになってきたが、理解が隅々まで広がっているかというと、当事者の1人としてまだまだだと感じる。

たとえば、比較的若い世代が見ているYouTubeで「ホモ」や「ゲイ」と検索してみると、同性愛という属性を笑いにした動画がまだまだ多く表示されている。飲み会では男性同士が仲良くしていると「お前らホモかよ」といじるというような場面に出くわすこともある。また、今回の騒動で保毛尾田保毛男を擁護する意見に連なるコメントには、「ホモ」「気持ち悪い」というような、明らかに差別的な言葉も多く見られた。

こうした現状がある中、困難な状況に置かれている人をさらに傷つけてしまう表現を減らしていくという意味でも、一連の騒動にはきっと効果があっただろう。

一方、「これでよいのだろうか」と、「何となくモヤモヤする」と思う人もいたはずだ。筆者自身もブログ等で議論を起こしておきながら、少なからず違和感を感じている。

SNSでさまざまな意見が寄せられたが、その先で傍観している多くの人にとって、この件はどう映ったのだろう。「自分には関係ない」とか、「物騒な感じでなんとなく怖い」とか「LGBTの話題は下手に触れないほうがいい」と思ってしまった人も、もしかしたらいたかもしれない。

「差別はいけないし、今回の保毛尾田保毛男もよくないのではと思う。しかし、ただ怒りをぶつけて、たたき合っているように見えると、ほかの方法はないのかと思ってしまう」というような意見には、少し同意する部分もある。本来はマイノリティ側にそこまで配慮させること自体が、差別の構造へ加担しているのではとも思うが。

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