1つの交際が終わって傷ついているときこそ、間髪いれずに次のお見合いをしたほうがいい。“日にち薬”よりも“恋の上書き”。そのほうが、早く傷が癒える。また50代は、感傷に浸っていたら時間がもったいない。
そこから由美子は、再度申し込みをどんどんかけ、月に2、3本のお見合いを繰り返していったのだが、なかなかいいご縁に恵まれなかった。
そんなときに、高瀬慶彦(54歳、仮名)からの申し込みがあった。年収は平均以上、有名大学を卒業し、都内の一等地に持ち家がある。条件は悪くない。見た目は地味だったが、顔立ちからまじめで誠実な様子が感じ取れた。
高瀬とのお見合いを終えた由美子が言った。
「私はこれまで、女性をグイグイ引っ張っていってくれる男っぽい人が好きだったけれど、そういう人には選ばれなかった。高瀬さんは、これまで好きになった人とはタイプが違うけれど、お話ししたら穏やかで誠実そうな方なので、交際希望を出してみようと思います」
高瀬からも交際希望が来て、2人は交際することとなった。ところがメールが来るのは1週間に1度。そのメールでデートの日にちと場所を決めてデートをすると、また1週間メールが途絶える。
「メールがまるで業務連絡のようなんです。私、素朴な疑問で“高瀬さんって、これまで女性とお付き合いしたことがあるのかな”って。それで、聞いてみたら、『付き合ったことはある』って言うんですけど、これまでの人生の中で、女性に1度も、『付き合ってください』と言ったことがないんですって。『じゃあ、どうやって交際が始まるんですか?』と聞いたら、『なんとなく始まって、会わなくなったら終わっている。気がついたら女性がいなくなっていることもある』っておっしゃるんですよ」
結婚って、なんなんでしょう
この話を聞いたとき、こんな調子では結婚まで進んでいかないだろうと心配していた。ところがお付き合いから3カ月経った頃、高瀬の相談室から電話がきた。
「昨日、高瀬から吉井様と結婚に向けて真剣交際に入りたいと連絡があったのですが、吉井様はいかがでしょうか?」
私は、相談室からの電話に驚き、すぐに由美子に連絡を入れた。
「実はその話、この間のデートのときにされたんです。『結婚を前提にということを相談室に言います』って。 “それって相談室に言う前に、まずは私に言うことじゃないの?”ってツッコミたかったけど、これまでの彼の言動から、いっぱいいっぱいなんだろうなと思ったので、『わかりました』と答えたんですね。そしたらその日、『まあ、実際どうなるかは、わかりませんけどね』って。その言葉を会話の端々で何度も言うんですよ。この方、本当に私との結婚を考えているのかどうか疑問になりました。悪い人ではないと思うけれど、心の中が見えない」
さらに、この“結婚を前提に”の話をしてから、2週間メールがまったくこず、その後また業務連絡のようにメールがきて、2人で箱根の温泉に日帰りで行くことになったそうだ。温泉では、男湯と女湯に別々に入り、食事をして帰ってきた。付き合うようになって5カ月になるが、お互いを、“高瀬さん”“吉井さん”と呼び合い、です、ます調で話し、手をつないだこともない。
「もういい年なんだからほれた腫れたと言ってる場合じゃない。好きとか嫌いという気持ちを優先させるよりも、穏やかで平和な家庭生活ができる人にお相手選びをシフトさせたほうがいいと思っていました。だけど、“それでいいのかな?”って、最近すごく疑問なんです。じゃあ、“相手にばかり任せていないで、私が積極的にこの結婚話を仕切っていけばいいのでは”とも考えたけど、彼をムチャクチャ好きなわけでないから、その情熱もわかない。結婚って、なんなんでしょうね。私自身がよくわからなくなってきました」
由美子は、大きなため息をついた。
結婚を決めるには、どこか思い切った決断が必要になるのだが、オーバー50になると、これまで積み重ねてきた人生経験が無鉄砲に突き進むことに歯止めをかけてしまう。再婚者に至っては、元の家族とのしがらみ(財産問題や子どもからの反対)もある。また若い頃に比べて、お互いを異性として求める情熱がなだらかになっていることも否めない。
50代の結婚は、やっぱり難しい……。
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