ところが3カ月くらい活動した頃、58歳バツイチの会社経営者で条件も見た目も申し分のない男性が現れた。お見合いを終えた後に、弾むような声で電話をかけてきたのを今でも覚えている。
「今日のお相手の方、とんでもなくすてきな人でした! 見た目も若々しかったし、お話も楽しかった。私は交際希望を出します。お相手も出してくださるといいなあ」
すると、相手からも交際希望がきた。
交際がスタートしてからも順調で、1カ月後、由美子からまた弾んだ声で、電話がかかってきた。
「吉野さんが、“先週マンションの部屋を断捨離した”っておっしゃったんですよ。“マンションには別れた妻のものがまだ残っていたから、由美ちゃんにいつ来てもらってもいいように、それを全部処分したよ”って。今住んでいるマンション1棟がご自身の持ちものなんですって。違うフロアに、社会人の娘さんと大学生の息子さんがそれぞれ住んでいらして、 “今度紹介するよ”ともおっしゃってくださいました」
またそれから間もなくして、こんなことも話してくれた。
「この間、2人でお食事をした後に、Blue Noteに行ったんです。ジャズの生演奏を聞いている間中、吉井さんが私の手をずっと握ってくださっていて、すごく幸せな時間でした」
毎日のようにきていた連絡が…
その話を聞いて、“これは結婚まで進んでいくだろうな”と思っていた。ところがその数週間後、吉野の父が脳梗塞で倒れた。そこから毎日のようにきていた連絡がパタリとこなくなった。
「1週間前に私から入れたメールの返事がこないんです。会社と病院の往復で、お忙しいだろうし、状況が状況だけに、私からうるさく連絡を入れるのもどうかと思って、メールは入れないようにしているんですけど」
声が沈んでいて、寂しそうだった。
と、その2週間後に、吉野の相談室から「交際終了」の連絡が来た。
彼からのメールをずっと待っていた由美子に、交際終了を伝えるのは酷だと思ったが、伝えないわけにはいかない。
私は、由美子の会社の昼休みの時間を狙ってメールを入れた。
「吉野さんの相談室から“交際終了”が来たんだけど、少し電話で話す?」
すると、こんな返信がきた。
「今話したら泣いてしまうかもしれないので、少し気持ちを落ち着かせて、私から夜電話を入れてもいいですか?」
由美子のショックが伝わってきた。
その日、私が吉野の相談室に“交際終了”の理由を尋ねると、「父親の介護が始まり、自身の結婚を考える余裕がなくなった」とのことだった。それが、本当の理由なのかどうかはわからない。介護が始まったときこそ、パートナーの助けが必要だからだ。もしかしたら元妻が、介護のちょっとした手助けをしたり子どもたちの世話を焼いたりと、夫婦の関係は解消していても家族としてのかかわりを持つようになったのかもしれない。またもしかしたら、由美子のほかにも見合いをした相手がいて、最終的にその女性を選んだのかもしれない。
真意はわからないが言えることは、吉野は由美子を結婚相手に選ばなかったということだ。
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