経済全体が映画のようにバーチャル化しつつある−−押井守 アニメーション・実写映画監督

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経済全体が映画のようにバーチャル化しつつある−−押井守 アニメーション・実写映画監督

--押井監督の作品はどれも個性的で、監督の主張が作品全体にあふれていますが、最近発売された著書『他力本願』(幻冬舎)では、「他人のアイデアに頼る」と書かれていました。意外な感じがします。

多くのスタッフの感性が加算されるからこそ、映画は面白くなるんです。多くのアイデアを生かしながら、少しずつ自分の作品にしていく。自分一人で考えたら、自分のアイデアの範囲でしか作品は成立しません。

僕はスタッフがやりたいことをやれる努力をしているんです。彼らに要求していることはきついですよ。だけど、きついからこそ、少なくとも楽しい現場にしたい。でも楽しいといっても飲み会を開いているとか、ボウリングに行くとかではない。

人間はやりたいことをやっている瞬間が楽しい。仕事が楽しいとスタッフは僕が要求した以上のアイデアを考えてくれる。スタッフみんながやりたいことをやる。それをバラバラにならない、まとまった映画にする。それが監督の仕事なんです。スタッフも「自分は必要とされている」と思ってくれるからこそ、こちらが期待した以上の仕事をしてくれるのだと思います。

一度任せたら、もうとやかく言わない。彼らのほうで、僕が何を考えているかを結構勉強しているみたいですよ。「やりたいことをやればいい」と言うのを「試されている」と感じているみたいで。

僕があまり何も言わないので、やりづらいと感じるスタッフもいるでしょうね。でも本当にすばらしいアニメーターであれば、僕が言った一言ですべてを理解するし、なかなかの答えを出しますよ。

--スタッフの希望と監督の希望が一致しないことは?

それはありますよ。その場合は「とりあえずやってみれば」と言うこともあれば、「やっぱりやめたほうがいい」と言うこともある。いずれにせよ、スタッフがやりたいことがあって、それを「やりたい」と僕に言える環境を作ることが必要です。まあ三つ言ってきたら一つぐらいは試してみる。全部自分の思いどおりにやらないと自分の映画にならないとは思っていないから。逆に、一から十まで他人のアイデアで作ったとしても、最終的に自分の映画になっていることが監督の条件だと。だから、僕が主張する割合は、かなり低いですよ。

--現在公開中の『スカイ・クロラ』はこれまでの押井作品の絵柄とずいぶん違います。

(作画監督の西尾鉄也氏から)「今回はこういう絵柄でやりたいんだけど」という提案があって、「うーん、じゃあ、やってみようか」と。まあ、彼を作画監督に据えた時点で、彼がやりやすい絵柄でやろうと思っていたんです。こういう絵柄になるんなら、背景も色も音楽もこう変わるという風に考えていく。

自分よりうまい人はいくらでもいる。でも自分には監督として他者に取って代えられない才能がある。自分よりうまくできる人がいれば、そういう人に任せて自分は監督業に集中すればよい。作品本位で考えるとそうなる。

--画面の隅々まで自分の主張を貫き通す宮崎駿監督の手法とはかなり違いますね。

宮さん(宮崎監督)とはまるっきり逆だよね。僕はよほどのことがないと自分で手を出そうと思わない。そのほうが楽だし。監督が苦労しているようでは、その現場はダメなんですよ。監督が自ら乗り出さないといけない現場は、スタッフが機能していない現場だと思う。

僕は絵を描かない、描けない監督です。逆に宮さんが頑張っちゃうのは、自分が最高のアニメーターだという自負があるから。あの人は自分が5人いれば最高だと思っているんです。でも僕が3人いたら、多分収拾がつかない(笑)。

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