私の人生は完全に失敗だった!

他人の成功談はおとぎ話だと思いなさい

さて、今回の相談は「個人的な些細な悩み」のうちでも際立って「些細な」悩みに見えますが、こういうことを簡単に切り捨てる哲学者は、いかにすばらしい学問的業績があろうと、しょせんニセモノです。哲学者とは人間に関するすべてに対しておざなりな態度を取らない者のことです。

些細な問題の方が人間的ではるかに困難

そして、誠実であろうとするなら、偉大な問題より些細な(卑近な)問題のほうがはるかに人間的で、はるかに困難なことがわかります。世界平和運動は議論を重ね努力を重ねればそれなりの成果はありますが、夫婦の間の平和問題はそんな力業ではいかない難しさがあるのです。

今回の「些細な」相談に目を向けて見ると、相談者を叱咤激励することは簡単にできますが、私はそうしたくない。なぜなら、彼女は彼女なりの「規準」を持って人生の価値を測っているのですから、その「規準」が「医者になること、公認会計士になること、第1志望の会社に受かること」であることを眺めて、バカな評論家は「そんな人聞きのいい職業にとらわれているからダメなんだ、自分が本当にしたいことは何か考えたまえ」とわめきますが、現代日本人のほとんどにとって、「人聞きのいい職業」はとても大切なことですし、現代日本人のほとんどにとって、「自分が本当に何をしたい」のかわからないのが現状です。

とはいえ、私も医者がダメなら公認会計士、それがダメなら第1志望(のたぶん一流)企業というふうに移っていくのに対して、共感を覚えるわけではない。私が言いたいのは、それではいつまで経っても他人(社会)の評価に依存することになりますよ、そして他人(社会)の評価は恐ろしく変動しますから、それに依存するとあなた自身いつまでも不安定になりますよ、ということです。

もし相談者が「それでもいい、私はいつもその時代において他人から最大の評価を受ける職業に就きたい」と答えるなら、私がさらに言いたいことは、そのためには全身で努力する必要がある、しかも報われないことを覚悟しなければならない、ということです。

長い人生を送ってくれば自然とわかりますが、石にかじりつき血を流すほどの努力をしても報われるとは限りませんし、鼻歌交じりにやってもあれよあれよとうまく行くことがあります。哲学をしてよかったと思うことは、実は人間のすることなすこと、みな「わかったふりをしていますが、実は何もわかっていない」ということがわかったことです、努力がどう報われるか、などという複雑きわまりない方程式の解などわかりっこない。

ただ、個々の場合に、Aにおいてはこうであった、Bにおいてはこうであった、Cにおいてはこうであった、という実例を参考にして、動くことができるだけです。しかも、実を言うと、実例もほとんど当てになりません。似たように見える実例であっても、あなたはAでもBでもCでもなく「あなた」なのであり、状況もaでもbでもcでもなく、「いま・ここ」なのですから。よって、成功した人は何でも語りたがりますが、その成功談はおとぎ話程度の役にしか立ちません。

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