残念な上司は部下の報告をうまく生かせない ムダな営業日報にこだわりすぎていませんか

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一例を挙げましょう。私が30代後半、三菱商事・日立製作所・東芝・三菱電機・日本アイ・ビー・エムの計5社で設立された「ピープル・ワールド」という共同出資会社の社長を務めていたときの話です。

会社設立当時、株主5社の経営者に対して、四半期単位で直接面談して業務報告を行っていました。資本金4億円のうち45%を占める大株主は日本IBM。私は共同出資会社の創業社長として、事業の立ち上げの理解・協力をこの5社の中でも特に日本IBMから得る必要がありました。日本IBMの社長は、のちに経済同友会の代表幹事なども務めた北城恪太郎(きたしろ・かくたろう)さんでした。業務報告のたびに、私はよい話よりも、直面している課題など、むしろ悪い話をしました。

しかし、北城さんはいつも私の話を冷静に聞いてくれて、聞き終わった後にはアドバイスをもらっていました。プレゼンの場においても、北城さんはほとんど「ノー」とは言いません。たいてい「いいね」と言って、ただ聞いてくれました。それによって、私は安心して、率直な意見やアイデアを話すことができたのです。

これは北城さんが、私にとって話しやすい環境をつくってくれていたということです。そして、「どんな情報であろうと、この人なら、ちゃんと聞いてくれる」と信じることができたからこそ、悪い報告も率直にできたわけです。

実際、北城さんは会社の風通しをよくするために、「私は年3回しか怒らないから、心配せずに、悪い話でも何でも上に上げなさい」と社内で公言され、有言実行されていたのです。

「判断」するのは聞き終わったあとでいい

部署のメンバーの報告に対して、マネジャーが話の途中で「それはちょっとよくないね」と反応すれば、相手はネガティブになってしまいます。「判断」は、報告を聞いたあとに行えばいい。まずは、真実を話してもらわないと、対策の打ちようがありません。

そのためには、ただ聞くこと。ここで「否定のサイン」を出しても、いいことはありません。メンバーを萎縮させ、ヘタをすると悪い事実を隠したり、虚偽の報告をしたりすることさえ誘発しかねない。もしメンバーがそこでうそをつけば、それをごまかすために、さらにごまかしを重ねざるをえなくなり、どんどん泥沼にはまっていきます。

だからこそ、悪い情報に関しても決して感情的にならず、いったん受け入れる。相手が話しているのをさえぎることなく、「いいね」「なるほど」という相づちを打つ程度に抑える。とにかくメンバーが話しやすいように気を配り、ただ聞くという姿勢がマネジャーには必要になります。

そして、すべてを聞いて真実を完全に把握したうえで、次のステップとして感想や意見を伝えたり、対策を考えたりするとよいのです。「聞く」タイミングと「話す」タイミングは、明確に分けるのがコツです。

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